坪田譲治(つぼたじょうじ)の小説。1935年(昭和10)『改造』に発表、この作品で坪田は文壇的な地位を固めた。これ以前に彼は善太と三平ものといわれる一連の童話のなかで独自の子供像を描き、童心の叙情だけでないリアリズムの基礎を築いている。この小説にも善太と三平の兄弟が主人公として登場するが、ここではさらに子供の背後に子供を包む社会の影が描かれ、子供の世界と大人の世界の交わるところで文学を成立させている。無邪気に父と遊ぶ子供に対比する、生活に疲れて死さえ考える父の姿は、郷里にあって家業と文学のはざまにあったころの坪田譲治を思わせる。次の小説『風の中の子供』『子供の四季』と続いて三部作をなしている。
[征矢 清]
『坪田譲治著『風の中の子供』(新潮文庫)』
…26年に処女短編集《正太の馬》を刊行,文学と家業の二足のわらじがつづいたが,33年には経営権をめぐるいざこざから島田製織所をやめ,文学一筋の背水の陣をしいた。35年,山本有三の紹介で雑誌《改造》に《お化けの世界》が発表され,好評を博した。また同年,第1童話集《魔法》,第2童話集《狐狩り》も出版され,ようやく坪田文学に日が当たりはじめた。…
※「お化けの世界」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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