改訂新版 世界大百科事典 の解説
カバルディノ・バルカル[共和国]
Kabardino-Balkar
ロシア連邦南西部,北カフカスにある共和国。旧ソ連邦のもとではカバルディノ・バルカル自治ソビエト社会主義共和国としてロシア共和国に属したが,ソ連邦解体後に現在の共和国となり,92年3月ロシア連邦条約に調印した。地域名はカバルダとバルカリア。面積1万2500km2,人口90万1494(2002)。首都はナリチク。1921年9月カバルダ自治州が設けられ,22年1月カバルディノ・バルカル自治州に改編,36年12月5日自治共和国となった。大カフカス山脈の中央部の北斜面に位置し,テレク川流域の山麓にステップが開ける。カバルダ人の祖先は,アゾフ海,黒海沿岸に居住したアディゲ諸種族の一つ。カバルダ語はアブハーズ語と同じカフカス諸語の北西グループに属する。バルカル人は北カフカス,アラン諸種族とブルガール人,キプチャク人の混交の結果形成された。バルカル語はチュルク語のキプチャク・グループに属する。カバルダ人,バルカル人ともに,大部分がイスラム教徒である。共和国の民族構成(1989)は,カバルダ人48.2%,ロシア人32.0%,バルカル人9.4%,その他である。バルカル人は,44年スターリンによる強制移住を受けており,ペレストロイカ以後にはバルカル共和国の分離形成を目ざす運動,カバルダ人との緊張も伝えられる。
この地方では古くは前8千~前5千年紀の中石器時代の遺跡が知られ,青銅器時代のマイコープ文化,コバン文化の遺跡も多い。13世紀以降,モンゴル,クリム・ハーン国,トルコの侵攻を受けた。16世紀中葉,カバルダはロシア帝国に併合されたが,その後もトルコとの角逐は続き,1774年の条約でロシア領として認められた。1827年にはロシアのバルカリア併合も完成した。ロシア帝国は過酷な植民地抑圧体制を敷き,南方進出の軍事拠点として,59年テレク州に組み込んだ。1918年3月ソビエト権力の樹立が宣言されたが,内戦期にビチェラホフ軍,デニキン軍の侵攻をうけ,これら反革命軍を掃討して,20年3月24日ソビエト権力を確立した。現在,農業は穀物,ジャガイモ,園芸,野菜,ウリ類が主で,畜産は牛,豚,羊を中心とし,カバルダ種の種馬の輸出も知られる。工業は機械,金属,冶金,化学,食品加工が主である。ナリチクには10学部のカバルディノ・バルカル大学(学生数9000)があり,人工衛星観測所も付置されている。
執筆者:高橋 清治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報