カンティヨン(その他表記)Richard Cantillon

改訂新版 世界大百科事典 「カンティヨン」の意味・わかりやすい解説

カンティヨン
Richard Cantillon
生没年:1697-1734

経済学者。アイルランド生れのアイルランド系イギリス人。1716年パリに赴き銀行業等で成功したが,時の財務総監ジョン・ローににらまれてロンドンに逃れ,そこで不慮の死をとげた。その遺著商業一般の性質に関する研究》は55年の刊行までにすでに,その草稿によって英仏両国の経済学に影響を与えていた。彼はその経済思想をイギリスの経済学者,とくにW.ペティから受け継いでいる。しかし,ペティが富および価値の源泉を土地と労働の二元から究極的に労働一元に解消したのに対して,彼はそれを土地一元に解消し,ここからむしろフランス重農主義の思想的源流となった。重農学派の創設者ケネーはその学説の根本思想のみでなく,有名な〈経済表〉の着想をも彼から学んでいる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カンティヨン」の意味・わかりやすい解説

カンティヨン
かんてぃよん
Richard Cantillon
(1697―1734)

アイルランド生まれのイギリスの経済学者。1881年にW・S・ジェボンズによって再評価されるまで長い間忘れられていた。カンティヨンはロンドンで商業を、パリで銀行業を営み、イギリスの財政家でフランスに大きな影響力をもっていたジョン・ローの計画に乗じて巨富を得、ヨーロッパ各地を旅行したが、37歳のときロンドンの自宅で変死した。その著作『商業一般の性質に関する研究』Essai sur la nature du commerce en généralは、死後21年目に公刊された。J・ロック、W・ペティの著作と広範な旅行の経験とに影響された本書は、F・ケネーの『経済表』以前の数少ない体系的著作である。同時代の経済学者とくにV・R・M・ミラボーに強い影響を与えたが、その価格論、貨幣論、貿易論、経済循環論などは、古典学派を介して現代の経済学の先駆をなすものである。今日では、カンティヨンの人口論がT・R・マルサスのそれとは違う類型を示すものとして注意をひくとともに、その経済学が発展途上国の開発理論の原型の一つをなすものとして重視されている。

[菱山 泉]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のカンティヨンの言及

【重商主義】より

…この意図は,D.ヒュームやJ.タッカーを経てA.スミスにつながる経済思想であった。
【主要な理論家・思想家】
 重商主義期の主要な理論家・思想家としては,以上に挙げた人たちのほかに,イギリスでは,労働価値説を萌芽的に説き古典派経済学の最初の人と評価されているW.ペティ,私的所有権の根拠を労働に求めその見地に立脚してT.ホッブズからの前進を示し同時に貨幣・利子論の分野でも貢献したJ.ロック,ロックの貨幣・利子論の系譜に属する自由貿易論者J.バンダーリント,重商主義的性格を残しながらも特異な思想家として主著《蜂の寓話》(1714)を著したB.deマンデビル,古典派経済学の生誕を用意した関係にあるR.カンティヨン,J.ハリス,スミスの師F.ハチソン,さらに有効需要重視の観点から経済学の体系化を試み《経済学原理》(1767)によって〈最後の重商主義者〉と呼ばれることになったJ.スチュアートなどを挙げることができる。 イギリス以外の後進資本主義国だったフランス,ドイツ,アメリカなどは,イギリスの世界市場支配とその産業革命の進展に影響されつつ,その特殊な後進的社会構造を資本主義化したために,重商主義の語をこれらの国における歴史的体制概念として使用することは困難である。…

【重農主義】より

…その再建策として大農経営の発展を提唱したF.ケネーを創始者とし,その自然法思想や政策的主張や経済学説を祖述し発展させたV.R.ミラボー(ミラボー侯),P.S.デュポン・ド・ヌムール,メルシエ・ド・ラ・リビエール,A.N.ボードー(ボードー師),G.F.ル・トローヌ,A.R.チュルゴなどを代表者とする一団の経済学者に共通する経済思想・政策的主張・理論体系を一括して示す名称。重農思想の先駆者としてはケネーよりも前に,17世紀から18世紀初めにかけて活躍したP.Le P.ボアギュベール,J.ボーダン,R.カンティヨンなどをあげることができるが,ケネーは単なる農業重視ではなく,資本制的大農経営を重視した点で決定的に異なっている。 重農主義は本来フィジオクラシーと呼ばれる。…

※「カンティヨン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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