日本大百科全書(ニッポニカ) 「カンティヨン」の意味・わかりやすい解説
カンティヨン
かんてぃよん
Richard Cantillon
(1697―1734)
アイルランド生まれのイギリスの経済学者。1881年にW・S・ジェボンズによって再評価されるまで長い間忘れられていた。カンティヨンはロンドンで商業を、パリで銀行業を営み、イギリスの財政家でフランスに大きな影響力をもっていたジョン・ローの計画に乗じて巨富を得、ヨーロッパ各地を旅行したが、37歳のときロンドンの自宅で変死した。その著作『商業一般の性質に関する研究』Essai sur la nature du commerce en généralは、死後21年目に公刊された。J・ロック、W・ペティの著作と広範な旅行の経験とに影響された本書は、F・ケネーの『経済表』以前の数少ない体系的著作である。同時代の経済学者とくにV・R・M・ミラボーに強い影響を与えたが、その価格論、貨幣論、貿易論、経済循環論などは、古典学派を介して現代の経済学の先駆をなすものである。今日では、カンティヨンの人口論がT・R・マルサスのそれとは違う類型を示すものとして注意をひくとともに、その経済学が発展途上国の開発理論の原型の一つをなすものとして重視されている。
[菱山 泉]