日本大百科全書(ニッポニカ) 「キチヌ」の意味・わかりやすい解説
キチヌ
きちぬ / 黄茅渟
yellowfin seabream
yellowfin porgy
[学] Acanthopagrus latus
硬骨魚綱スズキ目タイ科ヘダイ亜科の海水魚。キジヌ、ヒダイ、キビレともいう。岩手県以南の太平洋岸、小笠原(おがさわら)諸島、兵庫県以南の日本海、東シナ海、朝鮮半島、台湾、トンキン湾、オーストラリア北岸~北西岸、ペルシア湾、アフリカ東岸などに広く分布する。南西諸島にはいない。日本では高知、宮崎、熊本の各県に多く、宮崎県では近縁のクロダイと比較すると、80%以上がキチヌで、クロダイは少ない。体形はクロダイに似て楕円(だえん)形で、体長は体高の約2.4倍。上下両顎(りょうがく)側部には3列以上の臼歯(きゅうし)がある。背びれ棘(きょく)部中央下の上方横列鱗(りん)数は4枚、側線鱗数は48枚以下と、クロダイより少ない(クロダイは前者が6枚以上、後者が48枚以上)。全長は約55センチメートル。体は黄色みを帯びた淡青褐色。腹びれ、臀(しり)びれ、尾びれの下半部は黄色であり、これが和名の由来となっている。水深50メートル以浅の浅海の岩礁域の周辺、内湾にすむが、幼魚は河口域や汽水域に好んで入る。クロダイの産卵期は春であるが、キチヌのそれは秋(10月~11月)である。卵は径0.8ミリメートルの分離浮性卵で、水温22.6℃では約29時間で孵化(ふか)する。キチヌにも雌雄同体と性の分化現象があり、幼魚や若魚は雄として機能し、大きくなると雌に性転換する。一本釣り、定置網などで漁獲される。秋冬には美味で、刺身、塩焼き、煮つけなどに珍重される。近縁のナンヨウチヌは臀びれと腹びれは黄色ではなく暗灰色で、体高は高く、体長は体高の約2.2倍である点が、キチヌと異なる。
[赤崎正人・尼岡邦夫 2017年7月19日]