スズキ目サバ科サワラ属に属する海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。サワラの名はこの仲間の腹部が狭いという意の狭腹(さはら)に由来するといわれる。また,しゅんが春なので,魚偏に春をつけ鰆(さわら)と書くようになったという。英名はSpanish mackerelなどといわれ,マグロに近い美味な魚とされる。日本近海にはサワラScomberomorus niphonius,ヨコシマサワラS.commerson,ウシサワラS.sinensisの3種がいる。このうちサワラがもっとも分布が広く,北は北海道南部から南はオーストラリアまで分布し,日本近海ではもっともポピュラーな種類である。ヨコシマサワラは本州中部以南からインド洋,紅海にまで分布する。ウシサワラは日本南西部から台湾や南シナ海に分布する。3種のうち,サワラは歯の縁がのこぎり状になっていないこと,側線が波状で,これに直角に多数の脈枝(みやくし)(葉脈のような枝状のもの)が出ているなどの特徴がある。色は体全体が金属的な光沢に富み,背側は青灰色,腹側は白っぽく,7~8本の灰色の小紋の縦列が体側に並ぶ。ウシサワラは歯の縁がのこぎり状になっておらず,また第2背びれの下で側線が急に下方へ曲がるという特徴がある。ヨコシマサワラは歯の縁がのこぎり状で,鰓耙(さいは)が短く数が少ない(3本ほど)などの特徴がある。大きさはサワラが全長1mで体重4.5kg,ウシサワラが全長2mで90kg,ヨコシマサワラが全長1.5mで60kgに達する。
サワラは成長に応じて呼名が変わる出世魚の一つで,関西では50cmくらいまでの若魚をサゴシ,70cmくらいまでをヤナギ,70cmを超すとサワラと呼ばれる。東京では若魚をサゴチという。日本各地の沿岸水域に広く分布し,季節的な回遊を行う。ときには群泳する。暖かい時期には遊泳層が浅いが,寒い時期になると深場に移動する。生息水温は10~20℃。産卵期は4~7月ごろで,この時期に,瀬戸内海のような内海や内湾部に入る。瀬戸内海では漁獲量としては少ないものの,マダイとともに高級魚として重要である。また,瀬戸内における魚類群集の高次捕食者としても重視される。瀬戸内海での重要な漁場は燧灘(ひうちなだ),播磨灘などで,瀬戸内海全体の70~80%のサワラを漁獲する。漁期は4~6月の春季と9~11月の秋季に大別され,春漁期は大型の産卵群を,秋漁期は中型の索餌群と小型の成長群を対象とする。幼魚は藻場で生活して急速に成長し,10~11月には40~50cmに成長する。産卵群の主体は満2年を経過した2歳魚と考えられている。魚食性が強く,イワシ,サバ,イカナゴなどを貪食(どんしよく)する。引縄,手釣り,刺網,巻網,定置網などいろいろな漁法でとらえられる。3種のうち,もっとも美味とされるのがヨコシマサワラで,次いでサワラ,ウシサワラの順となる。サワラのしゅんは春とされるが,冬から春にかけて〈寒ザワラ〉と称され,美味な時期とされる。刺身,照焼き,みそ漬,かす漬,塩焼きで賞味される。昔はサワラの卵巣を塩漬にし,からすみにした。
執筆者:谷内 透
日本特産のヒノキ科の常緑高木で,木材はヒノキに劣るが,観賞用に栽植される多数の園芸品種がある。樹高30m,幹はまっすぐで直径1mを超すこともある。樹皮は灰褐色で薄く縦に裂けてはがれる。樹冠は円錐形,ヒノキより色が淡い。小枝は平らで,裏側の葉面に幅の広い白色の気孔群がある。葉は鱗片状で先がとがる。春,小枝端に目だたない雌・雄の花をつける。秋に径6~7mmの球果を結び,果鱗の中央がややへこむ。種子は小さく両側に薄い翼がある。福島県から岐阜・福井県までの本州中部各地に分布し,岩手(早池峰山)・和歌山・広島・熊本・長崎(島原半島)の各県にも1,2ヵ所みられる。木曾では五木の一つで,谷筋・沢ぞいに生育する。
心材が帯黄褐色,辺材が淡黄白色で,材質,香気,光沢ともにヒノキに劣り,樹脂によるしみが出やすい欠点もあるが,水湿に耐えるので,桶類,浴室用材として多く用いられる。また庭園樹,生垣としての利用はヒノキに勝るほどで,園芸品種も多い。枝葉が細長く垂れるヒヨクヒバ(イトヒバ),葉が播種(はしゆ)当年夏までの苗にみられるような針状葉のみでその色も青白緑色のヒムロ,刈り込まずに全体が円柱状球形になるタマヒムロ,葉が細長くとがり生垣に多く用いられるシノブヒバなどは形の変わったものである。色変りにも,新葉の黄金色になるオウゴンサワラ,オウゴンヒヨクヒバ,オウゴンシノブヒバ(ホタルヒバ,市場名日光ヒバ),白色になるフイリヒバなど美しいものがある。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
硬骨魚綱スズキ目サバ科に属する海水魚。広義には本種を含むサワラ属全体、あるいはカマスサワラ、ニジョウサバをも含めたサワラ族を意味する。このうちサワラ属はもっとも大きなグループで、世界の海洋から多数の種が記載されており、現在までに少なくとも18種が独立種と考えられている。日本近海からは5種が知られているが、サワラが産業上の最重要種である。本種は沖縄以北の日本各地の沿岸ならびに黄海、沿海州にかけて分布し、とくに瀬戸内海に多い。体は細長く側扁(そくへん)し、サワラ型のスマートな体形を有する。体表は微小な鱗(うろこ)で覆われ、体側には多数の暗色斑点(はんてん)が7、8列に縦走する。側線は波状で著しく曲がり、これと直角に繊細な脈枝が多数出ている特徴によって他種と容易に識別できる。全長1メートル。群生し、通常は表層に生息するが、冬季には深みに移動するほか、水平的にもかなり移動するようである。5~7月ごろ内湾に来遊して産卵する。卵径1.5~1.9ミリメートルの球形分離浮性卵で、サバ科のなかでは最大級の卵を産む。孵化(ふか)直後の仔魚(しぎょ)は全長3.8~4.3ミリメートルで、稚魚期の成長はきわめて速く、1日平均2.0~3.6ミリメートルに達する。若魚はサゴシとよばれる。魚食性で小形魚を貪食(どんしょく)する。日本各地で引縄、手釣り、刺網、巻網、定置網などさまざまな漁法でとられるが、主漁期は春季にある。
近縁種のヨコシマサワラScomberomorus commersonは、サワラによく似ているが、側線が第2背びれの後端部下方で急激に下方に曲がること、鰓耙(さいは)数が少ないこと、歯の縁辺部が細かい鋸歯(きょし)状を呈することで、ほかのサワラ類と区別できる。体側には多数の暗色横縞(よこじま)があり、全長1.5メートルになる。肉質が白色で脂肪も多く非常に美味であるが、分布の中心は熱帯域にあり、日本での漁獲は少ない。
ウシサワラS. sinensisは2メートルに達する大形種で、大きい個体では長くとがった吻(ふん)と、頭部背外郭が凹形にくぼむ特徴を有するために識別は容易である。側線は第1背びれ下方で著しく屈曲するが分枝を派生しない。尾びれの後縁は大きな半月形を呈する。生息域がやや沖合いにあることからオキザワラともよばれる。日本における漁獲は少なく、味も先にあげた2種に劣る。このほかの日本産サワラ属として、ヒラサワラS. koreanusとタイワンサワラS. guttatusが知られているが、ともに非常にまれな種類で実証的記録は若狭(わかさ)湾で得られたものに限られている。
[沖山宗雄]
サワラは青背魚であるが肉質は白く、サバ、サンマ、イワシなどの青背魚に比べて脂質含量が少ない。そのため味が淡泊で、くせがなく、料理の幅が広い。主として西日本でとれるので、西日本での利用が多い。大阪では酢じめにした生ずし(きずし)が、サバの生ずしよりも上質のものとして正月の魚に利用されていた。和風料理では塩焼き、照焼きをはじめ、ちり蒸し、てんぷら、魚すきなどに、洋風料理ではムニエル、フライ、グラタンなどにする。卵巣はからすみの原料として用いられることもある。
[河野友美・大滝 緑]
ヒノキ科(分子系統に基づく分類:ヒノキ科)の常緑高木。大きいものは高さ55メートル、径2.7メートルに達する。樹皮は灰褐色で縦裂する。葉は交互に対生し、ヒノキに似た鱗片(りんぺん)状であるが、先がとがり、ヒノキのように丸くはない。雌雄同株で、4月に開花する。雄花は黄褐色、雌花は紅紫色、ともに小形で小枝の先につく。球果はヒノキより小さく、10月ころ黄褐色に熟す。種子も黄褐色で、ヒノキより翼の幅が広い。本州、九州に分布する。庭園、公園などに多く植えられる。材は建築、器具、器械、楽器、舟、彫刻、パルプなどに利用される。葉が細く先が鋭くとがるシノブヒバ、葉が線形で緑白色のヒムロ、小枝が細長く伸びて下垂するヒヨクヒバなどの品種がある。
[林 弥栄 2018年6月19日]
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