改訂新版 世界大百科事典 「キングスレー館」の意味・わかりやすい解説
キングスレー館 (キングスレーかん)
日本におけるセツルメント運動の端緒をなした施設。労働運動の組織化の初期において,労働者のための教育文化活動とキリスト教的社会主義の理念に立つ地域福祉事業の発展を目ざす拠点として,1897年片山潜によって東京の神田三崎町につくられた。イギリスの労働者教育運動の重要な一翼をなしていたセツルメント運動を,片山がイースト・ロンドンにおいて視察したことがきっかけとなって設立された。名称はイギリスのキリスト教社会主義者C.キングズリーにちなんでつけられた。キングスレー館は,当初幼稚園事業に着手してこれを継続させるとともに,職工対象の読み書き算盤あるいは英語,歴史の学習会を開き,青年渡米奨励事業にもとりくんで《渡米案内》を発行,財政的な支えも得ていた。しかし,日清戦争後の社会問題の顕在化にともない,〈社会問題の解決を目的とする所謂大学殖民事業〉(片山潜《自伝》)がこころみられ,社会講演会がしばしば開かれるようになるにつれ,労働問題研究や労働運動の活動家養成の拠点としての性格をもつようになり,この時期における労働組合の組織化に大きな影響を与えた。
執筆者:島田 修一
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