日本大百科全書(ニッポニカ) 「イースト」の意味・わかりやすい解説
イースト
いーすと
yeast
パン、ぶどう酒などをつくるのに用いられる菌類で、酵母ともいうが、生物分類学上の用語ではない。ギリシア語のzestos(沸騰の意)が語源といわれる。アルコール発酵が肉眼的に沸騰と類似の現象を呈することからこの名称ができたという。サッカロミセス・セレビシエSaccharomyces cerevisiaeが代表種である。
[曽根田正己]
イーストは、その使用目的により、パン用、ワイン用、ビール用などがある。また、ビールなど醸造用酵母では、液層の表面で発酵する上面発酵酵母と、液層の底のほうで発酵する下面発酵酵母がある。
アルコール発酵性のイーストは天然にも多く存在し、果実、花など糖分のあるところに生息している。したがって、昔は、ブドウの果実をつぶしたまま桶(おけ)に入れて自然に発酵させることが多かった。しかし現在では、ほとんどの場合、純粋に培養されたイーストが使用され、一部、製法や風味にこだわるパン作りで天然酵母が用いられている。イーストの発酵は、糖を原料にして二酸化炭素やエタノール(エチルアルコール)をつくるもので、発酵源である糖分を必要とする。
醸造用のイーストは、各工場で純粋なものを培養、増殖して使用する。パン用のものは、純粋培養したパン用イーストをさらに大量に培養し、これを脱水して固めた生(なま)イーストと、さらに乾燥したドライ・イーストにして市販される。これらを使用するときは、少量の砂糖を溶かした水に浮遊させ、30℃程度に20~30分置いてイーストに活性をつけたのち、材料に混合する。活性をつけないと発酵が十分に行われないので、膨張のよくない場合がある。
イーストはそれ自体タンパク質に富み、またビタミン類を含有する。これを利用して、飼料、食用、薬用にも使用される。タンパク質をイースト自体のもつ酵素によって自己消化させるなどして、加工食品のうま味ベースなどに使用される発酵調味液を製造したり、イーストの含有する核酸を抽出し、酵素作用により、5'-リボヌクレオチドのような核酸系調味料を製造したりする。
[河野友美・山口米子]
『Philip J. Barr, Anthony J. Brake, Pablo Valenzuela著、水永武光・大隅良典訳『酵母の遺伝子工学』(1995・宝酒造、丸善発売)』▽『田村学造・野白喜久雄・秋山裕一・小泉武夫編著『酵母からのチャレンジ「応用酵母学」』(1997・技報堂出版)』▽『小崎道雄・椿啓介編著『カビと酵母――生活の中の微生物』(1998・八坂書房)』▽『菊池韶彦著『新・生命科学ライブラリ 酵母のライフサイクル――ノーベル賞にかがやいた酵母の話』(2006・サイエンス社)』