日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギマランエス・ローザ」の意味・わかりやすい解説
ギマランエス・ローザ
ぎまらんえすろーざ
João Guimarães Rosa
(1908―1967)
ブラジルの小説家。幼児期より言語に対する非凡な才能をみせ、最初、故郷ミナス・ジェライス州で医師を務めるが、のち外交官畑に投じ、北東部地方主義作家の全盛期に短編集『サガもどき』(1946)で文壇にデビュー。これもミナス地方の牧場の生活、牧場主や牛飼いたちの「サガ」を物語る地方色濃い作品。言語の実験的使用と、深奥に迫る人間観察に優(すぐ)れ地方主義を超える作品として注目を浴びる。さらに10年後の1956年、7編の中編小説からなる『コルポ・デ・バイレ』と長編『大いなる奥地』が同時刊行される。とくに後者の長編はローザにブラジル文学最大の巨匠としての名声を与えた。この大作は、セルトンとよばれるミナス、バイア両州にまたがる広大な奥地を舞台に、野盗同士の戦いが元頭目の回想として描かれている。細密を極める描写は地方色の濃いものであるが、叙事詩や中世の騎士道物語を思わせるエピソードにあふれ、現実と幻想が織り成す豊饒(ほうじょう)な作品の世界は一地方を超える普遍性と永遠性を備えている。またポルトガル語の潜在能力を十二分に生かした造語、古語の再生、また外国語の借用など比類のない言語空間を構築している。ここに、ローザがしばしばジェームズ・ジョイスと比較される理由がある。
[高橋都彦]