ギリシア映画(読み)ギリシアえいが

改訂新版 世界大百科事典 「ギリシア映画」の意味・わかりやすい解説

ギリシア映画 (ギリシアえいが)

ギリシアの映画人として最初に国際的な評価を得たのはおそらくカコヤニスMichael Cacoyannisで,彼は初めイギリスで演劇と映画を学び,ギリシアに戻って製作を開始した。1955年にそれまで舞台女優だったメリナ・メルクーリMelina Mercouriを主役に起用して《ステラ》を作り,61年の《エレクトラ》によってカンヌ映画祭で最優秀映画技術賞を取った。主演女優はイレーネ・パパス。さらに彼はアンソニー・クインで《その男ゾルバ》(1965)を撮り,キャンディス・バーゲンで《魚が出てきた日》(1967)を撮ったが,彼の作風はしだいにギリシアの現実をはなれ,ハリウッド資本に頼ったこともあって一種の観光映画にすぎないとの評も出た。一方,マッカーシイズムでアメリカを追われたダッシンJules Dassinが,ギリシアにきてメリナ・メルクーリの主演で撮った一連の映画,《宿命》(1956),《日曜はダメよ》(1960),《死んでもいい》(1962)などがギリシア映画と呼べるか否かは微妙である。コスタ・ガブラスCosta-Gavras監督にも似たような問題があり,このフランスで育ったギリシア人の傑作《Z》(1968)は,現実にギリシアで起こった政治家暗殺事件についてのギリシアの作家バシリコスVasílis Vasilikósの小説を原作としているが,舞台は架空の国である。

 むしろ63年に発表されたコンドゥロスNíkos Kondoúros監督の《春のめざめ》のような作品のほうが白黒の画面に古代ギリシア風の抒情を再現して,この国固有の映画美を感じさせた。またマヌサキスKóstas Manousákis監督の《欲望の沼》(1966)は,ネオレアリズモのギリシア的展開として注目された。純粋なギリシア映画として最高の質を実現したのはアンゲロプロスThéo Angelópoulos監督の現代史三部作,なかでもその第2部《旅芸人の記録》(1976)である。ギリシアの田舎をまわる旅芸人の一座を軸に,第2次世界大戦から占領内戦と続く混乱の時期のギリシアの政治的精神的風土をトータルに表現したこの4時間の大作は,国際的に高く評価された。最新作《アレクサンダー大王》(1980)もきわめて好評であった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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