グラッブス(読み)ぐらっぶす(その他表記)Robert H. Grubbs

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラッブス」の意味・わかりやすい解説

グラッブス
ぐらっぶす
Robert H. Grubbs
(1942―2021)

アメリカの化学者。ケンタッキー州生まれ。フロリダ大学卒業。コロンビア大学で博士号を取得。アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究員などを経てカリフォルニア工科大教授となった。2005年、「メタセシス反応」とよばれる新たな有機合成の手法を開発したことにより、ショーバンシュロックとともにノーベル化学賞を受賞した。

 炭素は4本の手で炭素どうしや酸素などと結合して、鎖状環状のさまざまな化合物をつくっている。ところが1950年代に、炭素と炭素が二つの手でしっかりと二重結合しているのに、結合の相手をかえる場合があることが発見された。しかしその仕組みはわからなかった。

 フランスの化学者、ショーバンは1971年に、金属と炭素が二重結合した物質が触媒として働くと、炭素どうしが二重結合している相手をかえることを発見した。相手をかえるとき、いったん二つの二重結合どうしが四つの結合になって一つの輪をつくり、二つに分かれるときに相手を交換するという精妙な仕組みであることを解明したのである。位置をかえることをギリシア語で「メタセシス」というため、この反応は「メタセシス反応」とよばれるようになった。この反応を応用するとさまざまな化合物を生成できるが、反応の制御がむずかしいために実用化は進まなかった。

 1990年、シュロックがモリブデンを触媒に使うと活性の高い化合物生成ができることを発見した。これをヒントにしてグラッブスは1992年、白金族で原子番号44のルテニウムを触媒に使うと実用的なメタセシス反応が実現できることを発見した。

 これらの研究成果により、目的の化合物をより少ない反応でつくることが可能になったため、原料廃棄物を減らすことができ、環境への負荷が軽減されることになった。また、合成がむずかしかった環状化合物もつくれるようになったため、プラスチックの合成や抗がん剤など医薬品の開発などが飛躍的に進展している。

[馬場錬成]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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