有機合成化学(読み)ゆうきごうせいかがく(英語表記)synthetic organic chemistry

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

有機合成化学
ゆうきごうせいかがく
synthetic organic chemistry

簡単な化合物を原料として、いろいろな有機化合物をつくる化学をいう。簡単な構造の化合物を出発物として複雑な構造の天然有機化合物をつくる実験は、すでに19世紀後半から行われていたが、さらに発展して、天然には産出しない染料、医薬品、繊維製品などを人工的につくりだす研究が盛んに行われるようになり、有機合成化学は化学工業と密接に結び付いて発展を遂げた。有機合成化学においては、すでに知られている安価な原料から、高い付加価値の製品を得るという経済的側面も重要であり、より優れた製品を高収率かつ選択的につくるための合成プロセスの開発が、新しい物質の合成と並んで重要な課題になっている。有機合成化学の成果として、工業化されている製品としては、染料、医薬・農薬のほかに、グルタミン酸ナトリウムなどの調味料、バニリンなどの香料、合成洗剤、合成繊維・プラスチックなどの合成高分子があり、人類の生活を潤している。
 現代の有機合成化学は、高度の選択性をもった合成法を開発し、生物学的・医薬学的に重要な不斉(ふせい)合成を効率よく行う反応行程を開発する方向に進んでいて、酵素や微生物を利用した合成プロセスにも目が向けられている。K・B・シャープレスによるアルキンとアジ化物からトリアゾールを生成する反応を基礎にしたクリックケミストリーは、簡単な反応による機能性分子の合成を可能にした。新しい金属触媒や有機金属化合物を利用した合成反応も開発されている。鈴木章(あきら)・根岸英一らのノーベル賞受賞により日本で有名になったカップリング反応は、金属触媒の合成への応用の幅を広げ、選択的な炭素‐炭素結合の形成などに広汎(こうはん)に応用されている。合成化学のもう一つの新しい方向として、環境に負荷をかけない、いわゆる「環境に優しい」合成法の開発があり、有機溶媒でなく水を溶媒とした経済的な合成プロセスなどが開発されている。また、計算化学の手法と合成化学を融合したコンビナトリアル合成は、固相合成技術との組合せにより、新しい医薬品や生物活性物質の開発に必要な多数のライブラリー(化合物誘導体群)の合成に有力な手段となり、高速大量スクリーニング法とあわせて医薬品開発の新しい流れとなっている。[廣田 穰]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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