ショーバン(読み)しょーばん(その他表記)Yves Chauvin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ショーバン」の意味・わかりやすい解説

ショーバン
しょーばん
Yves Chauvin
(1930―2015)

フランスの化学者。フランス石油研究所の名誉研究部長。2005年、「メタセシス反応」とよばれる新たな有機合成手法を開発したことにより、シュロックグラッブスとともにノーベル化学賞を受賞した。

 炭素は4本の手で炭素どうしや酸素などと結合して、鎖状環状のさまざまな化合物をつくっている。ところが1950年代に、炭素と炭素が二つの手でしっかりと二重結合しているのに、結合の相手をかえる場合があることが知られるようになる。しかしその仕組みはわからなかった。

 ショーバンは1971年に、金属と炭素が二重結合した物質触媒として働くと、炭素どうしが二重結合している相手をかえることを発見した。相手をかえるとき、いったん二つの二重結合どうしが四つの結合になって一つの輪をつくり、二つに分かれるときに相手を交換するという精妙な仕組みであることを解明したのである。位置をかえることをギリシア語で「メタセシス」というため、この反応は「メタセシス反応」とよばれるようになった。この反応を応用するとさまざまな化合物を生成できるが、反応の制御がむずかしいために実用化は進まなかった。

 1990年になって、シュロックがモリブデンを触媒に使うと活性の高い化合物生成ができることを発見した。さらに1992年には、グラッブスが白金族で原子番号44のルテニウムを触媒に使うと実用的なメタセシス反応が実現できることを発見し、急速に実用化が進んだ。

 これらの研究成果により、目的の化合物をより少ない反応でつくることが可能になったため、原料廃棄物を減らすことができ、環境への負荷が軽減されることになった。また、合成がむずかしかった環状化合物もつくれるようになったため、プラスチックの合成や抗癌剤(こうがんざい)など医薬品の開発などが飛躍的に進展している。

[馬場錬成]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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