日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
コッククロフト‐ウォルトンの装置
こっくくろふとうぉるとんのそうち
複数のコンデンサーと同数の整流器を組み合わせて、変圧器の二次側交流尖頭(せんとう)電圧の複数倍の直流高電圧を発生させる装置。1932年コッククロフトとウォルトンが、この装置で発生した約60万ボルトの高電圧で陽子を加速し、リチウム原子核に当てて破壊した。人工の粒子線による最初の核反応である。コッククロフトらの装置は大型真空二極管(ケノトロン)を整流器として使用し大型であった。現在では半導体整流器を使用し、装置全体を絶縁用ガスまたは油を満たしたタンクに密封して小型化している。最高発生電圧は200万から300万ボルトまでで、今日の核物理学研究用の加速器には十分ではないが、重陽子を加速して三重水素標的などに当て中性子を発生させる装置や、大型粒子加速器の前段加速器としてなお使用されている。高電圧試験装置などとして工業用にも利用され、低周波の一次側と二次側を絶縁樹脂に埋め込み一体化した小型のものは数万から数十万ボルト程度の高電圧発生回路として軽電機製品にも取り入れられている。放射線監視用携帯型シンチレーション計数管などではさらに小型のトランジスタ集積回路として利用されている。
[池上栄胤]