原子核に粒子を衝突させたときおこる散乱および反応の総称。衝突粒子としては陽子や中性子はもちろん、一般にウランに至るまでの原子核、さらにγ(ガンマ)線や電子、中間子などさまざまなものがありうる。どの粒子によって引き起こされた反応であるかを識別するために粒子名をつけて、たとえば陽子核反応とよぶことがある。原子核反応には原子核の変換を伴わない弾性散乱や、反応のあと、核は変わらないが励起状態を残す非弾性散乱のほか、衝突粒子が原子核にとらえられて複合核をつくり、そこから粒子を放出して新しい原子核を残す反応などがある。1919年ラザフォードとブラケットが、天然放射性物質のα(アルファ)線を窒素の原子核に衝突させると、α粒子は窒素の原子核にとらえられて陽子を放出することをみいだした。これが原子核反応によって原子核の人工変換に成功した最初である。
[村岡光男]
一般にa粒子を原子核Aに衝突させたとき、b粒子が放出され原子核Bが残ったとするとa+A=B+b+Qとか、簡単にA(a, b)Bと書き、核反応式という。前記の反応の例についていえば
である。この式の両辺において左下の添字は原子番号または電気量、左上は原子質量数で、ともに反応の前後でそれぞれの和は保存する。Qは左辺の質量の和から右辺の質量の和を差し引いたものに等しいエネルギーでQ値とよんでいる。Qが負の場合は反応は吸熱反応で、衝突する粒子のエネルギーが|Q|を超えないと反応はおこらない。反応がおこり始めるエネルギーを、その反応の閾値(しきいち)という。吸熱反応とは逆に、Qが正のエネルギーのときは発熱反応である。核融合反応によってエネルギーを取り出し実用化に利用しようとしているのは、重水素と超重水素を反応させてα粒子と中性子になるとき解放される17.6MeV(MeVは100万電子ボルト)のエネルギーである。
γ線や電子は標的となる原子核と電磁的相互作用によって核反応を引き起こすが、衝突粒子が核子あるいは原子核であると標的核と核力により強く相互作用をする。入射粒子が標的核に近づくとその間に強い引力の一体ポテンシャルが働き、入射粒子束(ビーム)の一部はそのポテンシャルによって散乱し、他の一部は標的核の粒子と衝突して原子核を励起したり、また跳ねとばして放出したりする。そのため散乱して入射エネルギーのまま出てくる粒子数は減少する。これはちょうど光が曇りガラスの球によって散乱される場合に似ていて、一部は吸収されてしまう。吸収は波数に虚数部分を加えることによって記述できるが、原子核による粒子の弾性散乱も虚数部分を一体ポテンシャルに加えることによって表すことができる。これを光学ポテンシャルといい、弾性散乱を光学ポテンシャルによる散乱として表す方法を光学模型という。原子核は入射粒子とくに核子に対して共鳴箱のような働きをし、それにあった波長の核子を衝突させると、光学ポテンシャルの虚数部に相当する大きさの幅の共鳴現象をおこす。これを巨大共鳴あるいは形状共鳴とよんでいる。この共鳴は入射エネルギーが数百万電子ボルトくらいまでのときよく観測することができる。この共鳴現象から光学ポテンシャルの形状および深さを精度よく決めることができる。
弾性散乱を除いた反応としてはまず第一に直接反応がおこる。直接反応においては、入射粒子が標的核の核子と衝突して励起する非弾性散乱や、核外へ跳ねとばすノック・アウト散乱、また入射粒子が核子をつまみ上げていっしょになって出ていく、いわゆるピックアップ反応などがある。入射粒子が重陽子もしくは原子核のとき、その構成核子が標的核にとらえられる反応をストリッピング反応、そして入射核が二つあるいはそれ以上の部分に壊れる反応をブレークアップ反応とよぶ。
実際には1回の直接相互作用で反応がおこるだけでなく、多段階過程を経て反応が進む場合もあり、そして、入射粒子と標的核が一体となって複合核を形成し、最後にそれが崩壊する複合核過程もある。複合核の形成に至るまでの多段階過程によってつくられる状態には、ときとして共鳴現象として現れるものもある。形状共鳴幅と複合核共鳴幅の中間くらいの大きさの幅をもつので、中間共鳴とよんでいる。直接反応から複合核状態に至るこれらの状態を中間状態door way stateとよんで区別する。高エネルギーの入射粒子による反応、すなわち高エネルギー核反応においては、入射粒子の波長が短いので核内核子と衝突するとき他の核子は関与せず、したがって自由空間における核子と核子の散乱の知識を使って表すことができるようになる。
[村岡光男]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…原子核に他の粒子が衝突することによって起こる現象の総称。原子核反応ともいう。衝突する粒子は,陽子,中性子,π中間子,電子,光子などの素粒子である場合と,重陽子(重水素の原子核),α粒子(ヘリウム4の原子核),またはもっと重い原子核などの場合とがある。…
…しかし,ある特殊な状態の下では,原子核が反応を起こすことがある。それを原子核反応あるいは単に核反応という。核反応に伴って発生するエネルギーを原子核エネルギー(核エネルギー)nuclear energyあるいは原子エネルギーatomic energyという。…
※「原子核反応」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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