翻訳|transformer
電圧を所用の値に変換する装置。略してトランスともいう。電圧の変換は同時に電流の変換を意味し、電流を所用の値にしたいため変圧器を使用する場合もあるが、多くの場合は電圧の変換が目的であると考えてよい。
電気は交流と直流に大別できるが、変圧器は交流専用で直流には使えない。電力系統の大部分に交流が採用され、直流は電気鉄道など一部にしか採用されていないが、その理由は交流は変圧器が使えるからである。送電線で輸送できる電力には限界があり、その限界値は送電電圧の2乗に比例し、送電距離に反比例する。近年の電力系統は、主力となる大発電所が需要地から遠ざかる傾向にあり、長い送電線で大きな電力を輸送する必要がある。このため送電電圧はしだいに高くなり、日本では50万ボルトも採用されている。一方、工場なり一般家庭ではこのような高い電圧では不都合であるから低い電圧に変換する必要があり、このために変圧器が用いられる。
[岡村正巳]
鉄心に二つのコイルを巻いた二巻線変圧器を例に原理を説明する。鉄心は磁束の通路となる。二コイルの場合は、一つを一次コイル、他を二次コイルとよぶ。いま一次コイルに交流電源を接続すれば電流が流れ、鉄心には交番磁束が発生する。この磁束は二次コイルとも鎖交し、かつ交流電流の周波数にしたがって交番的変化をするため二次コイルに電圧が発生する。それぞれのコイルの巻数をn1、n2とすれば、一次コイルの電圧V1と、二次コイルの電圧V2とは、おおよそ次の関係がある。
したがって、所用のV2を得るためにはn1とn2の関係を調整すればよい。また一次コイルの電流をI1、二次コイルの電流をI2とすれば、おおよそ次の関係がある。
これは電圧と逆の関係にある。いずれの式も若干の誤差を無視した場合に成り立つ。また、二次端子にZ2の値のインピーダンスを接続した場合、一次端子からみたインピーダンスの値Z1とは、おおよそ次の関係が成立する。
したがって、一次端子側からみたインピーダンスは巻数比(n1/n2)を変化させることによって変えられる。電気通信の回路では、変圧器はこのようなインピーダンスの変換用として用いられる場合が多い。
[岡村正巳]
しかし、このような構造では一次コイルと二次コイルの磁気的結合がよくない。すなわち、一次コイルと鎖交した磁束のすべてが二次コイルと鎖交することが望ましいが、このような構造では一次コイルと鎖交しても二次コイルと鎖交しない磁束や、その反対に二次コイルと鎖交するが一次コイルと鎖交しない磁束が増える。このような磁束を漏洩(ろうえい)磁束とよぶが、これが増えると変圧器の効率が悪くなる。このため実際にはコイル配置として漏洩磁束を少なくするようにしている。また、鉄心とコイルの位置関係で、内鉄型と外鉄型がある。
[岡村正巳]
変圧器は運転中、コイルの抵抗によるジュール損失(I2R)、鉄心中の交番磁束によるヒステリシス損失、鉄心やケース内に発生する渦電流損失などのため熱を発生し、放熱が十分でないと温度が上昇して絶縁物の劣化を早める。このため放熱装置が必要となる。
変圧器は鉄心とコイルを鉄函(てつばこ)内に収め、鉄函を油で満たしたいわゆる油入(ゆにゅう)変圧器がもっとも多い。密封タンク内に六フッ化硫黄(いおう)ガスなどを封入し、内部送風機により巻線内を循環冷却させるガス冷却変圧器や、鉄心とコイルをケースに収めることなく空気中で使用する乾式変圧器などもあるが数は少ない。もっとも多く採用されている油入変圧器では、油は原油から精製した鉱油で変圧器油ともよばれている。油の任務は二つあって、一つは絶縁材としてであり、他の一つは冷却材としてである。したがって変圧器油は絶縁耐力が高いこと、粘度が低い流動性の高いものであることが望ましい。発生した熱は油に伝わり、温められた油は対流をおこす。自冷式では変圧器外箱の表面積を大きくして冷却効果を高めるため、ひだをもたせたり、放熱器を取り付けたりする。風冷式ではファンで風を放熱器に当てる。水冷式は水冷管を油中に設けて冷却水を通す。送油式は温められた油をポンプで導き出し、自然冷却、風冷、水冷などの方法で冷却する。
[岡村正巳]
油入変圧器は、負荷の変動や周囲温度の変化により油の温度が変化する。このため油の容積も変化するので、タンクに開口部があれば空気が出入りする。これを呼吸作用とよんでいる。呼吸作用があると、外界の湿気が吸入されることと、空気中の酸素が油と反応して不溶解性のスラッジを生成することにより、油の絶縁耐力と冷却作用を低下させ故障の原因となる。このため種々の油劣化防止装置が実用されている。開放式は、呼吸口に吸湿装置(シリカゲル)を置いて吸い込む空気から湿気を取り除く方式である。密封式は、コンサベーター上部に窒素を封入密閉する。したがって油温の変化に伴い窒素の圧力が変化することになる。隔膜式は、コンサベーター内部に柔軟な耐油性ゴム膜で油と外気との接触を遮断する方式である。
[岡村正巳]
単巻変圧器は巻線が一つだけの変圧器で、小型にすることができ、テレビやラジオの受信機などに広く用いられている。
計器用変圧器は高電圧の測定に用いるもので、低電圧に変換したときの変圧比から元の電圧を求める。負荷時電圧調整器は、負荷を遮断することなく電圧を調節するもので、電力系統で広く用いられている。
[岡村正巳]
トランスフォーマー,略してトランスともいわれ,場合により変成器ともいわれる。変圧器は交流の電圧および電流の大きさを電磁作用により変成する電気機器である。一般には,共通の磁気回路(鉄心)のまわりに二つの巻線が巻かれており,一方の巻線に電力が入り,他方の巻線から電力が出る。前者を一次,後者を二次といっている。変圧器は,その名の示すとおり,交流の電圧を変成するのが主要な用途である。大は発電所・変電所用の500kVA,1000MVA(100万kVA)を超える大容量のものから,手の平にのせられる電子回路用の小型のものまで各種各様のものがある。変圧器の巻線には抵抗,鉄心には励磁電流,励磁損失(鉄損)があるが,動作原理を説明するには,必要に応じ,無視できるほど小さいとして取り扱ったほうが簡便である。このような変圧器を理想変圧器といっている。理想変圧器の二次巻線を開放したまま,一次巻線にv0なる電圧を印加すると,励磁電流i0(ただし,理想変圧器なのできわめて小さい)が流れ,一次巻線の巻数n1との積n1i0の起磁力で鉄心中にφの磁束を生ずる(図1)。このφにより一次,二次巻線に誘導される起電力e1,e2は次のようになる。なお二次巻線の巻数はn2とする。
印加電圧v0は誘起電圧e1とつりあうことになる。いま交流の周波数をf(Hz),角周波数をω=2πfとし,電圧,電流を実効値VまたはE,I,磁束は最大値Φmを用いて表すと,
これを上式に代入すると,
となり,電圧と磁束の関係式が得られる。磁束φは起磁力n1i0により誘起されるが,磁気回路の透磁率μに比例してi0が減ずるので,一般の変圧器ではμの大きい方向性ケイ素鋼板が用いられる。無線周波数のような高周波用の変圧器では同一の電圧を得るのに,上式からわかるようにφが小さくてよいので,鉄心は用いなくてよい。一次と二次との電圧は,
の関係にあり,aを巻数比といっている。
二次に負荷が接続され電圧に対しθの遅相の電流I2が流れると,これの起磁力は励磁電流I0の作る起磁力を減ずるように作用するので,一次電流I1′が流れて,増磁し,Φmがつねに一定となるようにする。したがって次の式が成立する。
n2I2=-n1(I1-I0)=-n1I1′
この関係をベクトル図で示すと図2のようになる。なお,I0≪I1であるので,n2I2=n1I1とすればE1I1=E2I2となり,一次と二次の電力は同じになる。
変圧器は構造上内鉄形と外鉄形に分類される(図3)。鉄心には励磁特性がすぐれ,鉄損失の少ない0.3mm厚さ程度の方向性ケイ素鋼板を使うのが一般である。鋼板はその表面に化学処理した酸化皮膜や,絶縁ワニスを施し,渦電流損を減ずるようにしている。これを所要寸法に積み重ねる。巻線の入る鉄心脚は内鉄形の場合にはほぼ円形断面をもつ円筒柱に,外鉄形の場合は矩形断面に積み重ねている。なお,小容量の変圧器ではC形の巻鉄心を図3-cのように巻線に抱き合わせたものもある。
巻線には直巻(じか巻)と形巻とがある。直巻は鉄心脚に絶縁を施し,この上に,じかに一次,二次巻線を巻く。脚間には継鉄鋼板を差し込み組み立てる。直巻は小容量のものに用いられる。形巻は木製巻形または絶縁筒上に一次,二次巻線を一体または別々に巻き,適切な絶縁を鉄心,巻線間に入れながら,巻線を鉄心脚に挿入,さらに脚間に継鉄を入れ組み立てる。小容量のものでは鉄心を締め金具でまとめ,巻線の防温と固着のためワニス含浸,または合成樹脂成形を行っている。高圧の変圧器では,電気絶縁と,巻線の抵抗損と鉄心の鉄損による発熱の冷却を兼ねて,巻線,鉄心を鋼製タンクに入れ絶縁油に浸して使用するのが一般である。数kVA程度のものはタンク外壁よりの放熱で十分だが,さらに大容量のものでは,タンクにひだをつけて冷却面積を大にしたり,独立の冷却器を多数個タンクに取り付けるなど積極的に冷却を行うことが必要である。タンク内部の巻線より電力を引き出すのにはブッシングが用いられる。ブッシングは外被は屋外でも使用できるように磁器製で,その中に筒状絶縁物と絶縁油で絶縁された導体が入っているもので,タンク内外に導体が貫通する構造のものである。
火災を考え,とくに油をきらう地下室の変電所などに使用される変圧器は,1000kVAを超えるような大型のものでも,油入構造でないものがある。巻線にシリコン樹脂含浸,または巻線をエポキシ樹脂成形して絶縁したもので,油入に対し,乾式といっている。なお大容量の変圧器には三相構造のものが多い。また,2巻以上の多巻線変圧器もある。
執筆者:山本 充義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…トランスホーマーtransformerの略。変圧器,または変成器のこと。…
…計測,制御用または電子回路の直流分離やインピーダンス変換用などに用いられる電磁結合素子の総称(図1)。原理的にも構造的にも電力用の変圧器とほぼ同じものである。共通の鉄心に2組以上のコイルを巻いたもので,各コイルの電圧がその巻回数に比例することを利用して電圧を変える目的で用いるのが変圧器,コイルが2組の場合,電流は巻回数に反比例することを利用して電流を変える目的で用いるのが変流器である。これらのことから,一方のコイルにあるインピーダンスを接続して他方のコイルから見ると,これが(巻数比)2倍になって見えることを利用するのがインピーダンス変換器で,インピーダンス整合(最大電力を伝達するために電源の内部インピーダンスと負荷のインピーダンスとを一致させること)のために用いるものをとくに整合用変成器という。…
…オーストリア・ハンガリーの電気技術者。変圧器を実用化して交流技術の確立に貢献した。ウィーン工科学校で水力技術を学んだ後,ブダペストのガンツ社に入って,ブラティO.T.BlathyおよびツィペルノフスキーK.Zipernowskyと協働した。…
…トランスホーマーtransformerの略。変圧器,または変成器のこと。変圧器はその名の示すように交流電圧を変えることを目的とする。…
※「変圧器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...
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