重陽子(読み)ジュウヨウシ(その他表記)deuteron

翻訳|deuteron

デジタル大辞泉 「重陽子」の意味・読み・例文・類語

じゅう‐ようし〔ヂユウヤウシ〕【重陽子】

重水素ジュウテリウム)の原子核陽子1個と中性子1個とからなる。デューテロン

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精選版 日本国語大辞典 「重陽子」の意味・読み・例文・類語

じゅう‐ようしヂュウヤウシ【重陽子】

  1. 〘 名詞 〙 質量数二の重水素の原子核。陽子一個と中性子一個が結合している。2H、Dなどの記号で表わす。デューテロン。〔原子力(1950)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「重陽子」の意味・わかりやすい解説

重陽子
じゅうようし
deuteron

陽子1個と中性子1個とが結合してできた原子核の呼称で、ジュウテロン(デューテロン)ともいい、重水素原子Dの核をなすので重水素核ともいう。結合エネルギーは約200万電子ボルト(質量欠損に直すと重陽子質量の約0.1%)である。これは平均的な原子核の結合エネルギーに比べて非常に小さく、重陽子では陽子と中性子が大変弱く結合していることを示している。陽子2個だけあるいは中性子2個だけの原子核は安定に存在しないので、質量数(陽子の数と中性子の数の和)が2である原子核は重陽子だけであり、最小の質量の原子核である。このことは、同種核子間に働く力よりも陽子と中性子の間に働く力のほうが強いことを示している。重陽子では、陽子と中性子のスピンは同じ向きで平行になっており、また、全体の形はほとんど球形だが、わずかに楕円(だえん)形に変形している。これは核磁気共鳴スペクトルは水素から得られるものより大きな分岐を示す理由として、重水素核が電気四重極モーメントをもつことがわかったからである。

 小さな原子核どうしが核融合をおこしてエネルギーを解放する核反応は、恒星のエネルギー生成の主役である。また不幸にも水爆にも使われているが、化学反応に比べて桁(けた)違いに大きなエネルギーである。なかでも重水素どうしや重水素とトリトンヘリウムリチウムなどとの核融合反応は重要である。重陽子を含んだ重水D2Oは天然の水H2O中に約0.015%含まれており、地球上で十分得られるわけで、核融合炉エネルギー源として注目されている。

[坂東弘治・元場俊雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「重陽子」の意味・わかりやすい解説

重陽子 (じゅうようし)
deuteron

デューテロンともいう。水素の同位元素である質量数2の重水素の原子核。2H,D,dなどの記号で表される。重陽子は陽子1個と中性子1個から構成され,安定で,その結合エネルギーは約2.225MeVである。スピンは1で,磁気モーメント核磁子単位として約0.846,電気四重極モーメントは0.286efm2e単位電荷,1fm=10⁻13cm)である。2体系なので理論的取扱いも簡単で,陽子と中性子の間に働く核力についての重要な情報源である。とくに電気四重極モーメントをもつことは,陽子と中性子の相対運動において,軌道角運動量量子数が0のS状態だけでなく,2のD状態も混じっていることを意味し,核力の中にスピンと軌道運動を結合させるテンソル力が存在することを示している。また,その質量数当りの結合エネルギーが他の原子核と比べて小さいために,d+d→3He+n,d+d→3H+p,d+3H→4He+n,d+3He→4He+pなどが比較的大きなエネルギーを放出する発熱反応で,核融合反応の代表的なものであり,また宇宙における元素の形成や恒星のエネルギー源として重要な役割を果たしている(Heはヘリウム,pは陽子,nは中性子)。
核融合
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百科事典マイペディア 「重陽子」の意味・わかりやすい解説

重陽子【じゅうようし】

デューテロンとも。質量数2の重水素の原子核。陽子と中性子が1個ずつ結合したもの。加速装置で加速して標的粒子に衝撃させるのに用いられ,また重水の形で原子炉の減速材に利用される。→核融合
→関連項目核反応

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「重陽子」の意味・わかりやすい解説

重陽子
じゅうようし
deuteron

重水素原子核原子番号 1,質量数 2,結合エネルギー 2.22MeV,核スピン 1,核磁気モーメント 0.8574核磁子,核四重極能率 e×2.8×10-27cm2 (e電気素量) 。記号は 2H ,D,dなどを用いる。陽子 1個と中性子 1個とからなる体系で,その結合エネルギーは小さいので,核反応に際しては 2個の粒子は自由粒子に近い挙動をする。

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世界大百科事典(旧版)内の重陽子の言及

【重水素】より

…またこれらに対し,ふつうの水素1Hを軽水素あるいはプロチウムprotiumとも呼ぶ。またDの原子核D(1個の陽子と1個の中性子から成る)を重陽子あるいはジュウテロンdeuteron,Tの原子核T(1個の陽子と2個の中性子から成る)を三重陽子あるいはトリトンtritonと呼び,Hすなわち陽子(プロトンproton)と区別する。 ジュウテリウムは,天然の水素や水素化合物中に水素の全量に対して0.015%含まれ,重水D2Oの電気分解でD2の気体として取り出される。…

【重水素】より

…またこれらに対し,ふつうの水素1Hを軽水素あるいはプロチウムprotiumとも呼ぶ。またDの原子核D(1個の陽子と1個の中性子から成る)を重陽子あるいはジュウテロンdeuteron,Tの原子核T(1個の陽子と2個の中性子から成る)を三重陽子あるいはトリトンtritonと呼び,Hすなわち陽子(プロトンproton)と区別する。 ジュウテリウムは,天然の水素や水素化合物中に水素の全量に対して0.015%含まれ,重水D2Oの電気分解でD2の気体として取り出される。…

【陽子】より

…陽子は水素原子の原子核であり,水素イオンとして陽子がつくられる。同位体として質量数が2の重陽子(デューテロン),質量数が3の三重陽子(トリトン)が存在する。 陽子の発見は,1886年ドイツのE.ゴルトシュタインが,陰極線の実験において陽極からも放射線が出ていることを見いだしたのに始まる。…

※「重陽子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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