日本大百科全書(ニッポニカ) 「サストレ」の意味・わかりやすい解説
サストレ
さすとれ
Alfonso Sastre
(1926―2021)
スペインの劇作家。マドリード出身。社会変革を理念に、閉鎖状況下の人間の恐れや苦悩や絶望を主題とした、シリアスな社会劇が多い。若くして短い前衛劇から出発したが、劇作家として認められたのは、罰として陣地の死守を命じられた兵卒たちが峻厳(しゅんげん)な上官を殺害してしまう『死に向かう小隊』(1953)。ほかに、専横とその結果を家族形態のなかで扱った『猿轡(さるぐつわ)』(1954)や、権力者の横暴に対する鉱山労働者の連帯が主題の『赤い土地』(1954脱稿)、さらに闘牛士の死への苦悶(くもん)を描いた『裂傷』(1960)や、テロを題材にアルジェリア民兵とフランス人の争いを取り上げた『網の中で』(1961)などの作品がある。サストレは『革命と文化批判』(1964~1969)など演劇論を多数残している。しかし、彼の作品と改革論の間には大きなギャップがある。『すばらしい酒場』(1985)、『エマヌエル・カントの最後の日々』(1990)は、初期の作品と類似し、大成功を収めた。しかしこれを最後にサストレは演劇界から引退し、バスクで民族問題に取り組んだ。
[菅 愛子・野々山真輝帆]
『ミゲール・ミウラ、アントニオ・ブエロ・バリェッホ、アルフォンソ・サストレ著、佐竹謙一編訳『現代スペイン演劇選集――フランコの時代にみる新しいスペイン演劇の試み』(1994・水声社)』▽『Martha T. HalseyThe Contemporary Spanish Theater(1998, University Press of America)』