日本大百科全書(ニッポニカ) 「サルコキスティス」の意味・わかりやすい解説
サルコキスティス
さるこきすてぃす
[学] Sarcocystis
アピコンプレックス門胞子虫綱コクシジウム亜綱の1属の単細胞動物。旧分類では原生動物門胞子虫亜門無極嚢(むきょくのう)胞子虫綱肉胞子虫亜綱に入れられていた。近年、生活環がようやく明らかにされた単細胞動物で、生活環が完結するためには中間宿主を絶対に必要とし、中間宿主はヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタなど、また終宿主はヒト、イヌ、ネコなどである。
中間宿主の筋肉内に胞嚢を形成し、その大きさは微小なものから長径5ミリメートルに達するものまである。胞嚢の中には、大きさ10マイクロメートルくらいの三日月形の小虫が充満している。この胞嚢を有する肉を終宿主が食うと、小虫は小腸粘膜に侵入してただちに有性生殖に入り、オーシスト(接合子嚢――接合子が膜に包まれたもの)を形成し、それより脱したスポロシスト(オーシスト内に形成される嚢状構造で、その中に種虫が存在する)の形で糞(ふん)とともに外界に出る。スポロシストは楕円(だえん)体で15マイクロメートルくらいの大きさであり、中間宿主に摂取されると消化管内で種虫が脱出し、各種の臓器内に侵入し、そこでメロゴニー(娘虫形成(じょうちゅうけいせい))を行ってメロゾイト(娘虫)を形成する。これがやがて筋肉内に胞嚢をつくるようになる。中間宿主で下痢、発熱、貧血、体重減少、全身衰弱、泌乳量の減少、流産などがおこり、終宿主では、おもにヒトで腹痛、下痢、発熱などの症状が知られており、医学や獣医学の立場からはきわめて重要な病原体である。
[小山 力]