日本大百科全書(ニッポニカ) 「ざくろ口」の意味・わかりやすい解説
ざくろ口
ざくろぐち
江戸時代の銭湯にあったもので、戸棚風呂(ぶろ)が開放的に進化した浴槽構造の一つ。左右および後部を羽目板で囲んだ小部屋に浴槽を設け、その前面に天井から低く板を垂らして張ったものである。蒸し風呂と湯浴の折衷の構造といえる。湯気の放散を防げるので湯も冷めにくい。その前面を覆った板の下部に、人が身をかがめてくぐれる程度のすきまがあり、客はそこを通って浴槽と流し場の間を出入りした。
この語源として、昔は鏡を磨くのにザクロの実の醋(す)を用いたところから、「かがみ入る」と「鏡鋳(い)る」をかけて、ざくろ口とよばれたという。江戸と京坂とではいくらか様式も異なるが、いずれも華麗なざくろ口の形式を生み、明治10年ごろまで存続した。
[稲垣史生]