ザクロ(読み)ざくろ(英語表記)pomegranate

翻訳|pomegranate

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ザクロ」の意味・わかりやすい解説

ザクロ
ざくろ / 石榴
柘榴
pomegranate
[学] Punica granatum L.

ザクロ科(APG分類:ミソハギ科)の落葉小高木。観賞用の1変種ヒメザクロvar. nana hort.は樹高20~30センチメートルの低木。一般に分枝が多く、葉は対生し短柄がある。花は両性花と雌性の退化した雄花とがある。萼(がく)は筒状、多肉質で5~7裂する。花弁は6枚で橙赤(とうせき)色を基本とし、そのほか白色、赤色に白色の絞り、橙黄色などがある。果実は花托(かたく)の発達したもので、ほぼ球形となり、宿存萼がある。果皮は厚く、中に薄い隔膜で仕切られた6個の子室があり、多数の種子が隔膜に沿って配列する。熟果の果皮は黄白色または紫紅色となり、不ぞろいに開裂し、白色、淡紅色あるいは濃桃色の多汁な外種皮をもった種子を現す。外種皮は甘酸っぱく特殊な風味があり、生食用とするほか、グレナディンgrenadineなどの清涼飲料とする。原産地はイランアフガニスタンパキスタン、インド北西部には種なしの果実を結ぶよい品種がある。アメリカではフロリダジョージアルイジアナの地方で、生食用、ジュース用として栽培される。日本へは平安時代に中国を経て入ったと推定されており、花木として重んぜられた。そのため、花はもちろん、果実も熟して割れる美しさを観賞してきた。また、根や茎の皮、果皮を薬用とした。本州以南なら栽培は可能であるが、暖地でよく育つ。繁殖は挿木、取木、株分けなどによる。なお、果樹用品種としては、果皮の割れない形質が重要視される。実のなる実ザクロに対し、八重咲き種は結実せず、花ザクロとよぶ。

[飯塚宗夫 2020年8月20日]

薬用

幹、枝、根の皮部をザクロ皮または石榴皮(せきりゅうひ)といい、条虫駆除薬として使用する。その有効物質がペレチエリンという揮発性アルカロイドであるため、新鮮なものでなければ薬効はない。なお、中国で石榴皮という場合は果実の皮をいい、止瀉(ししゃ)、駆虫剤として慢性細菌性下痢、血便、脱肛(だっこう)、回虫による腹痛蟯虫(ぎょうちゅう)病などの治療に用いられる。根の皮は別に石榴根皮と称される。

[長沢元夫 2020年8月20日]

文化史

右手にザクロを持つ鬼子母神(きしもじん)像は、釈迦(しゃか)が訶梨帝母(かりていも)にザクロを与え、人の子のかわりにその実を食べよと戒めたという仏教説話が日本に伝わって、できあがった。このため、ザクロは人肉の味がするとして、昔は好まれなかった。仏典には降魔の威力をもつと出る。中国へは紀元前2世紀、張騫(ちょうけん)が西域(せいいき)から持ち帰ったと伝えられ、日本ではかつて銅鏡を磨くのにこの果汁が用いられた。もっとも品種の多かったのは明治の末から大正の初めにかけてで、1912年(大正1)に出た『石榴名鑑』(東京讃品(さんぴん)会編)には50余りの品種が載る。しかし、それらの品種は関東大震災と第二次世界大戦により大半が消失した。

 新王国時代のエジプト、フェニキア、古代ローマなどでは神聖な植物とみなされ、ペルシアでは果実が王笏(おうしゃく)の頭部を飾り、ギリシアのロードス島では花が王室の紋章の一部に使われて権威の象徴とされた。その背景には、萼片の形が王冠に見立てられたことや、ザクロの果実としての重要性のほか、種子の多さから多産・豊穣(ほうじょう)のシンボルと考えられたなどの面があげられる。初期のキリスト教美術では、エデンの園(その)の生命の木として描かれている。

[湯浅浩史 2020年8月20日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ザクロ」の意味・わかりやすい解説

ザクロ(石榴)
ザクロ
Punica granatum; pomegranate

ザクロ科の落葉高木で,イランからインド地方にかけての原産とされる。果樹としては世界で最も古い栽培の歴史をもつものの一つである。日本には平安時代に中国から伝えられ,庭木として広く栽植されている。高さ5~10mに達し,幹はねじれて瘤をつくる。若い枝は四角形で,短い枝の先はとげになる。葉は長楕円形で対生し,表面につやがある。橙赤色の花が6月頃に咲く。花弁は5~7枚で薄く,萼は筒状で先端部が6裂している。花には,このほかに緋色で八重咲きのもの,黄色や白色のものなどもあり,特にハナザクロといって観賞用にされる品種もある。果実は堅く大きな球形で熟すると赤みを帯び,不規則に裂開する。中に多数の球形の種子があり,種子を取囲む半透明の仮種皮は淡紅色で甘ずっぱく,食用や果実酒にされる。根や果皮は駆虫剤とされ,サナダムシによくきくという。

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