日本大百科全書(ニッポニカ) 「シェンキェビッチ」の意味・わかりやすい解説
シェンキェビッチ
しぇんきぇびっち
Henryk Sienkiewicz
(1846―1916)
ポーランドの小説家。ロシア占領下のポドリア地方の中流地主の家に生まれ、愛国的な家庭の伝統と空気のうちに成長した。ワルシャワで法律と医学を学び、早くから社会時評を書き、実証主義的な社会性をもつ短編の筆をとり始めた。『老いたる召使い』(1875)、『ハニャ』(1876)、『セリム・ミルザ』(1877)は小三部作ともいわれ、シェンキェビッチの作家としての地位を確立した短・中編の名作で、滅びゆく古い世代への同情から当時の社会悪を叙情的筆致で暴いたもの。1876年から3年間アメリカに滞在、その批判的な印象記『アメリカの旅先からの手紙』を発表した。帰国後歴史小説に手を染め、有名な三部作『火と剣(つるぎ)』(1884)、『大洪水』(1884~86)、『パン・ウォヨディヨフスキ』(1887~88)を発表。いずれも、コサック、タタール、スウェーデン、トルコの侵略を撃退した17世紀ポーランドの歴史を題材とし、愛国心を鼓舞する劇的な戦争と冒険の物語である。さらに彼は、もう二つの歴史小説『クオ・バディス』(1896)と『十字軍の騎士』(1900)を発表して1905年ノーベル文学賞を受賞。前者はキリスト教徒迫害の史実に基づくネロの物語、後者はドイツ十字軍団の侵入を撃退したグルンバルトの戦い(タンネンベルクの戦い)を描いたもの。晩年作の『砂漠と密林』(1911)は、ポーランドの少年とイギリス少女の友情と冒険の物語である。
[吉上昭三]