日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストック効果」の意味・わかりやすい解説
ストック効果
すとっくこうか
stock effects
整備された社会資本(社会インフラ)が十分に機能することで生み出される中長期的な経済効果。道路、空港、橋、上下水道、防波堤などのインフラ設備が整備されることで得られる防災力の向上、移動時間の短縮、快適性の向上、民間投資の誘発などの効果であり、整備効果ともよばれる。社会資本は本来、ストック効果を生み出す目的で整備されるものである。一般に、ストック効果は、厚生効果と生産性向上効果の二つに大きく分けられる。厚生効果には、防波堤・防潮堤などによる防災・減災力の向上のほか、上下水道やごみ焼却施設による衛生状態の改善、渋滞解消や水質保全による環境改善、歩道整備による交通事故の減少、文化・芸術施設の整備による快適性の向上、景観の改善、離島や過疎地の不便さの解消などがある。一方、生産性向上効果には、移動時間の短縮、輸送費の低下、貨物取扱量の増加などが該当し、こうした効果を通じた工場誘致などの民間投資の誘発や、観光消費の増大、農林水産業を中心とした地域振興などもこれに含む。
ストック効果のうち、生産性向上効果については、1970年代以降、アメリカを中心に多くの経済分析研究がなされており、社会資本整備と生産性(全要素生産性)には相関関係があることが指摘されている。社会資本の整備にあたっては、ストック効果を正確に予測したうえで着手することが望ましいとされるが、快適性や景観改善効果などの厚生効果を定量的に予測することはむずかしく、むだな公共投資を生む要因の一つとなっている。
なお社会資本の効果にはストック効果以外に、短期的に経済が拡大する「フロー効果」がある。フロー効果は公共投資によって生産活動が活発になり、これによって雇用が生み出され、所得増を通じて消費が拡大する派生的効果である。
[矢野 武 2016年5月19日]