翻訳|consumption
生活を維持・向上したり、欲望を満たしたりするため、財やサービスにお金を投じる行為。一般的には個人・家計の消費活動を指し、「個人消費」と言われる。国内総生産(GDP)の過半を占め、景気動向の重要な要素の一つ。モノを所有して価値を見いだす「モノ消費」と、サービスの利用により体験を楽しむ「コト消費」に区分されることもある。
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生活のために必要な物資・用役(サービス)を費消することが消費であり、それらの購入のために貨幣を支出することは消費支出とよばれる。消費と消費支出とはかならずしも一致しない。たとえば、テレビを買うために支出した金額(消費支出)はただちに全額消費されるわけではなく、それを使って得られる用役がその耐用期間中に消費される。
いま経済を循環として、すなわち、生産→分配→消費(および貯蓄)としてとらえると、消費および消費支出は二つの意味で生産に還流する。第一に、消費は労働力の再生産過程である。人は労働によって使い果たした労働力を、食べる、飲む、着る、眠るという消費過程を通じて再生産する。さらには次代の労働力の再生産のために、結婚し、子供を生み、扶養する。こうして消費は生産に還流する。第二に、消費支出は貨幣の支出であり、貨幣は消費財需要として生産者に還流する。
[一杉哲也]
一国の消費支出がどれほどの高さにあるかは、このようにその国の消費財産業に対する需要にかかわるし、また、その国民の経済的厚生の高さを左右する重要な要因である。消費水準には国民全体に関する国民消費水準と個人の個人消費水準とがある。統計的には、前者は国内総支出における民間最終消費支出で、後者はその1人当りで示される。
消費水準を決定する要因には、大きく分けて二つある。一つは個人の欲望、心理、習慣などの主観的な要因であり、一つは所得、財産状態、利子率、物価、政府の政策などといった客観的要因である。しかし現代社会では、主観的要因といっても、外的な刺激がこれを支配規制してしまうことが多い。その第一はデモンストレーション効果である。それは、ある人の消費水準が、つきあう人々(隣近所、知人、会社の同僚など)の消費生活の様式によって左右されたり、過去になじんでしまった生活水準は、所得が減少しても維持されがちであることを意味する。後者はアメリカなどではつとに知られているが、日本でもオイル・ショック時(1973年)に出現している。第二にはJ・K・ガルブレイスのいう依存効果がある。それは、消費者の欲望が、その自主的、合理的な判断によってではなく、消費財を生産する企業サイドの宣伝広告や販売網によってつくりだされてしまうことを示すものである。これらの要因は、かつて日本では都市においてだけ顕著であるとみられていたが、産業化と人口移動に伴う地域的所得格差の縮小、自家用車の普及、大型小売店の全国展開(その反面として従来型個人小売店の減少)やマスコミの普及によって、ほとんど全国的な現象となった。
なお、どのような客観的要因によって、ある時期の消費支出が決定されるかを、関数の形で示したのが消費関数であり、その形がどの国でもきわめて安定しているため、経済分析上有力な武器となっている。日本の場合、高度成長期を経てバブル崩壊後まで、消費支出を決定する第一の要因は所得水準であるとされ、その上昇につれて平均消費性向(可処分所得に対する消費支出の割合)が低下していた。この間バブル時には、消費者の保有する財産、とくに預金・公社債・株式などの金融資産の増大が消費を刺激する資産効果が叫ばれ、消費関数に変数として金融資産が登場する。バブルの崩壊はマイナスの資産効果を意味した。しかし1997年(平成9)をピークに消費者の所得が減少しているにもかかわらず、消費性向はむしろ低下している。これは所得が減少しても、将来の不安に備えて消費を切り詰め貯蓄に回すために、貯蓄性向(所得に対する貯蓄の占める割合)が強まったことにほかならない。またこれが日本銀行の超低金利政策下におこったことは、金利が高いと貯蓄が増え、金利が低いと減るという経済学の常識と相反する。かくて消費関数には、消費は将来の予想(期待)に大きく依存するという変数が必要になった。
[一杉哲也]
依存効果ないしデモンストレーション効果の問題は、消費支出水準と区別された消費水準に大きな影響を与える。すなわち、先進国の消費様式は、大きくヨーロッパ型とアメリカ型に分けられる。前者は、古い家具・食器あるいは長く維持された家屋などに象徴される豊かな耐久消費財と比較的低い消費性向、そして徹底したリサイクル思想を特色とし、自主的な消費選択を行う型である。後者は、流行の自動車やセカンドハウスなどに象徴される豊かな耐久消費財と、クレジットカードの普及などに象徴される高い消費性向をもち、高所得・高消費型である。しかしそこでは、テレビや新聞などによる宣伝広告がつねに新しい消費財に対する欲望を喚起しており、高所得でありながら欲求不満が慢性的に持続する。そして日本の消費様式はこれまで明らかにアメリカ型であったが、1990年代後半以降の構造的不況下、消費性向の低下、リサイクル・省エネルギーなど循環型社会へとアメリカ型を脱しつつあるようにみえる。
また、絶対的所得水準があるレベルを超えると、消費支出の50%以上がサービス支出に向けられるという法則性も認められている。これは所得水準が上昇すると、衣・食・住という物質的欲求が満たされ、高い質のサービスを欲求するようになるためである。日本でも1982年(昭和57)に50%を超し、2000年(平成12)には57.2%と上昇しつつある。消費のサービス化である。これに対応して、産業構造のサービス化も進展する。
さらに、所得水準の上昇につれて消費様式の多様化も進む。これは一方では価値観の多様化に対応し、依存効果に対する反逆ともみられるが、反面、エレクトロニクス化による多種小量生産化という生産面の変化にも依存している。
このように、消費様式の変化は生産面のそれと照応しつつ形成されるのである。
[一杉哲也]
『J・K・ガルブレイス著、鈴木哲太郎訳『ゆたかな社会』(1960・岩波書店)』▽『西村林著『現代消費経済論』(1999・税務経理協会)』
一定期間における一国の経済活動の結果を統計的にとらえるために,国民経済計算と呼ばれる経済勘定表が作成されている。現在日本では,1978年8月以降,従来の国民所得統計に代えて,国際連合の新しい国際基準に基づく国民経済計算体系(SNA)に準拠して毎年作成・公表されている。経済分析概念としての消費は,まずこの国民経済計算体系の中で明確に位置づけることができる。
国民経済の活動水準をとらえようとしたとき,経済活動を三つの側面から等しく把握することが可能である。第1は,各生産部門の生産活動の結果として生み出された付加価値の合計として,第2は,各生産部門の付加価値が経済主体の所得として分配された結果として,そして最後に,経済主体の所得が種々の支出に費やされた結果としても把握できる。三つの方法は,一つの経済活動をそれぞれ生産・分配・支出の別の角度からとらえようとしたもので,等価である(三面等価の原則という)。3番目の支出面からの把握では,国民経済計算上では,次のように定義される。
国内総支出=民間最終消費支出+政府最終消費支出+国内総資本形成+在庫品増加+財貨・サービスの輸出-財貨・サービスの輸入
右辺の第1項および第2項が,いわゆる消費または消費支出といわれる概念に対応する。その消費のうち,第1項の民間最終消費支出は,経済主体としての家計や民間非営利団体の財貨・サービスに対する消費需要を表している。一方,第2項の政府最終消費支出は,政府部門の行政や軍事等の経常的な財貨・サービスに関する消費需要を示している。式の右辺第3,第4項は,いわゆる投資に対応しており,民間,政府の投資活動の伴う財貨・サービスの需要である。右辺の第5,第6項は,海外経済主体との関係を示しており,輸入分をこの式で控除しているのは,先の消費需要や投資需要の中に海外からの輸入された財貨・サービスを含んでいることから,それを一括して除いて,一国経済の生産や分配の規模と整合させようとしたためである。その結果,左辺の総支出は,分配面からとらえた各経済主体の所得の総計(総生産)に一致する。簡単に以上の説明を書き直せば,
総支出=総生産=消費+投資+(輸出-輸入)
または
(総生産-消費)+(輸入-輸出)=投資
となり,左辺の第1,2項は合計で国内経済活動で発生した貯蓄,第3,4項は海外との経済活動で発生した貯蓄に対応する。そして,それらを合計した一国の貯蓄は,事後的には,投資に等しくなる。
《国民経済計算年報》で近年の総支出の内訳をみると,民間最終消費支出は,ほぼ57~58%で,10%程度の政府最終消費支出と合わせると日本経済の約67~68%が毎年消費にむけられていることになる。このようにマクロ経済活動でみたとき,一国経済の70%近くが,毎年消費にふりむけられている。消費支出の規模は,民間家計部門や政府部門の経済活動の結果である。とくに,民間消費支出の大部分は,家計の消費需要から成っている。家計は,労働供給の代価として得た所得のうち,一部を貯蓄にふりむけ,他の部分を種々の財貨・サービスの購入にむけることになる。民間最終消費の大部分は,こうした各家計の消費需要の行動によって説明されるべきものである。家計単位の消費行動を明らかにするために,非農家世帯を対象とした総務庁統計局(1984年6月以前は総理府統計局)の〈家計調査〉や農家世帯を対象とした農林水産省の〈農家経済調査〉などが毎年行われている。これらの資料が国民経済計算における一国の消費支出算定のための基礎資料として用いられていることはいうまでもないが,さらに1家計単位の貯蓄や消費の費目間分割の行動を定量的にとらえるためにも利用されている。
→消費関数 →消費性向
執筆者:黒田 昌裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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