外洋からの波を防ぎ、港湾を穏やかに保つため海中に設置される構造物。全長数キロにわたる長大なものもある。一方、海岸沿いの陸地に設置される「防潮堤」は、津波や高潮から内陸の住宅地などを守る堤防のことを指す。防波堤と防潮堤を組み合わせて段階的に津波の到達を遅らせ、沿岸住民が避難する時間を稼ぐ「多重防護」という手法も各地で採用されている。
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港湾は,船舶を安全に出入港させ,停泊,旅客の乗降,貨物の積卸しができなければならない。そのため,外海の波を遮断もしくは,その船舶への影響を最小限にする必要がある。港湾技術の未発達の時代は,岬の陰,入江,リアス式の湾に港を選定していた。このような場所は天然の良港といわれたが,海上交通の結節点としての港湾機能からは,近代港湾として不適合のことが多い。そのため,必要に応じて岬や島を埋め立てて,人工の波止(はと)をつくり,その中に船を停泊させようとした。しかし,大きい波による被害を防ぐことは容易ではない。そこで,波力に抵抗しうる人工の構造物を築造して波を遮ることが行われるようになった。これを防波堤と呼ぶ。
防波堤は強大な波のエネルギーに耐えねばならないから,巨石を積んだり,または,コンクリートのブロック,ケーソンをつくり,これを海底に沈設する技術が必要となる。フェニキア人によってつくられた,前2500年ころのテュロスなどの人工港では,捨石を用いた防波堤がつくられたという。日本では,セメントの輸入ならびに国産化の始まった明治の初期,コンクリートが生産され,1889年に始まった第1期の横浜港築港工事で,コンクリートブロックによる防波堤が初めてつくられた。
港湾荷役が可能な波の高さは,30~50cm以下といわれているが,一方,船が安全に出入りできる水路は開いておかねばならない。このことにより,波がどうしても港内に浸入してくる。この浸入波の影響を小さくし,しかも,船が容易に出入りできるよう防波堤と港口の位置を決めることが,たいせつなこととなる。一般には,陸岸から突出した突堤式防波堤mole,水面に孤立した島式防波堤breakwaterなどをいくつか組み合わせて,港湾の外郭を形成するが,河口付近,浅海部では,波のほか,流れが強く,砂の移動が生じたり,船舶の安全航行に支障をきたすので,防砂堤,導流堤が設けられる。防波堤の構造形式には,捨石やテトラポッドのような異形ブロックを積み重ねた傾斜堤と,大きな直方体のコンクリートブロックやケーソンを敷き並べた直立堤および両者の中間的な構造をもつ混成堤とがある。直立堤の部分を消波のため異形ブロックで被覆することもある。傾斜堤は,波のエネルギーを海浜における波のように砕けさせて吸収しようとするものであるが,広い設置場所と多くの材料を必要とし,とくに水深の大きいところでは不経済となる。一方,水深の深いところに用いられる直立堤は,波を反射させるものであるが,波が砕けると巨大なエネルギーの発散を生じ,転倒や滑動しやすくなるので,巨大な単体としておかねばならない。そのため,地盤支持力の不足のおそれが生ずる。混成堤は下部構造を傾斜堤,上部構造を直立堤としたもので,防波堤構造として広く採用されている。なお,これらのような構造物以外に,ポンツーンを用いた浮防波堤,気泡によって波のエネルギーを小さくしようとする空気防波堤,ケーソンに消波機能をもたせたスリット型の防波堤などが考えられている。
執筆者:長尾 義三
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防波堤は港湾における外郭施設の主体をなすもので、外海から来襲する波浪が港内へ浸入するのを防ぎ、また状況に応じては、高潮や津波の浸入を軽減するために設置されるものである。防波堤の歴史は古く、当初は地中海で用いられ、現存するものではローマ時代のハドリアヌス帝のころのものが知られている。地中海周辺では重量の大きい5トン程度の石材が多量に採取できるため、これら石材を用いた捨石(すていし)堤が用いられた。捨石堤前面の法面勾配(のりめんこうばい)は1対3に保つように計画されたが、低気圧、季節風によって波高が5メートルを超えることが多く、法面は崩れて1対8程度以上になり、石材も飛散して、絶えず補修の必要に迫られていた。このような状態が18世紀まで続いていたが、このころよりイギリス、フランス、オランダの北海グループが、当時のセメント・コンクリート技術の進歩に裏づけられて、捨石部の上部にコンクリートブロックの層積みあるいはコンクリートケーソン壁体を据え付け、捨石部の頂面を海面下へ大きく下げて、現今の混成堤へ導く技術を展開してきた。一方、フランス、イタリアを含む地中海グループは、捨石堤の弱点は波高に対する石材重量の不足にあることから、1個当り30~50トンのコンクリートブロックで被覆する方法を採用し、これが今日のマルセイユ港の長大な防波堤にその姿を見せることとなった。この流れはさらに深まり、コンクリートブロックの異形性と噛(か)み合わせ、適宜な空隙(くうげき)率という観点から、1940年代以降異形消波ブロックの開発へと進んでいった。
わが国の港湾の近代化は明治20年代から開始され、北海グループの指導により実施されたので、防波堤は当初からブロックまたはケーソンを用いた混成堤の型式をとっている。また水深の浅い陸岸からの巻き出し部は捨石堤の型式をとるが、被覆層には異形消波ブロックを採用するのが普通である。
上述の防波堤は分類上からは重力式となるが、1915年以降、空気泡を利用した混相流による空気防波堤、さらに現代では、浮体を海面近傍に用いた浮き消波堤、消音効果をもつ吸音板の機能を応用した多孔壁もしくはスリット壁ケーソン防波堤、あるいは鋼管矢板式防波堤など、新しい理論に基づいた新機軸の防波堤が、情勢に応じて各地に築造されるようになった。
[堀口孝男]
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…このことは海岸での土砂収支の均衡を破る結果となったのである。もう一つ見のがせない問題は,海岸に防波堤をはじめとして,多くの構造物が築造されたことである。これらの構造物は,それぞれの機能を果たすのに有効ではあるが,一方では沿岸を移動する漂砂に対しても大きな障害物となり,海浜土砂の移動量の分布に変化を生じさせた。…
※「防波堤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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