中央・地方政府が行う投資活動であり、産業基盤、生活基盤、国土保全などの社会資本形成のための年々の追加量をいう。政府が公共投資を行うのは、資源の効率的配分と経済安定という政策目標を達成するためである。
資本主義経済では、市場における価格機構を用いれば自動的に資源の効率的配分を達成することができる。しかし、そのためには一定の条件が必要であり、市場機構が不完全で機能障害をもつ場合や、市場機構に内在的欠陥が存在する場合には、市場の失敗が生じる。それゆえ、政府が供給しなければならない財・サービスが存在するのである。たとえば、(1)規模の経済が存在し、完全競争的に価格づけを行うと赤字が生じ破滅的競争ないし自然独占が生じる費用逓減(ていげん)の場合、(2)ある経済主体の活動が市場機構を通じないで直接他の経済主体の活動に影響を与える外部効果の存在する場合、(3)消費が共同して行われ、排除原則が働かないような公共財の場合、などには、公共部門が直接提供する対象になり、そのために必要な資本ストックが公共投資である。さらに、市場機構のみによっては望ましい安定政策の目標をも自動的に達成することができない場合がある。たとえば、(1)利子率や貨幣賃金率・物価が硬直的な場合、(2)人々の期待形成が完全に合理的ではない場合、などには、市場機構にゆだねておけば、失業が自動的に解消して完全雇用が達成できる、というわけにはいかない。そこで、有効需要の一要素である公共投資を活用することによって、総需要管理を行うことが必要となる。公共投資を現実に行う基準として、費用・便益分析がある。これは、将来時点で発生する純便益を現在時点で評価し、公共投資によってもたらされる純便益の現在価値の正・負によって判断するものであり、純便益の割引現在価値が正であれば、公共投資を行う価値があることになる。
この分析方法の問題点の一つとして、便益をいかに評価するかという点があげられる。公共投資のアウトプットが等量消費をもたらし、排除不可能な純粋公共財である場合、フリー・ライダーが存在して人々が真の選好を顕示しないため、需要曲線を正確に測定することができず、便益を測ることが困難となる。もう一つの問題として、割引現在価値を出す場合に用いる割引率をどのように決定するかという点が存在する。公共投資の割引率として、市場利子率と社会的時間選好率が考えられる。社会的時間選好率は、将来世代を含めた社会の全構成員の消費者主権によって決まる現在消費と将来消費との限界代替率であり、市場利子率は将来世代を含めていないため、両者の間には乖離(かいり)が生じる。市場利子率を割引率として用いると、将来世代の消費を過小評価するという偏りをもつことになる。
[藤野次雄]
『岡野行秀・根岸隆編『公共経済学』(1973・有斐閣)』▽『大石泰彦・熊谷尚夫編『近代経済学2 応用経済学』(1970・有斐閣)』▽『貝塚啓明・館龍一郎著『財政』(1973・岩波書店)』
公共投資は国民所得統計上,政府部門による実物資本増分であり,政府固定資本形成と政府在庫の純変化分の和である。政府部門を一企業とみれば,政府所有の全資産の純増分が投資となるが,土地買収,有価証券取得等単なる所有権の移転は社会全体の実物資本の増分ではないので統計上,公共投資には含めない。政府在庫は通常比較的小さいので,実質的には政府固定資本形成が公共投資となる。
公共投資は行政投資と政府企業(産業)投資からなる。前者は通常,投資からの直接収益の期待できない〈非排除性〉公共財,たとえば治水,道路,港湾,公園,福祉設備,上下水道,学校,防衛施設,官庁営繕等への投資で,国の一般会計,地方公共団体の普通会計,非収益的事業特別会計から賄われる。後者は,営業収入の期待できる〈排除性〉公共財,たとえば国有林野事業・政府系金融機関等への投資で,金利支払の要求される財政投融資資金によって賄われる。公共投資の規模は規範的には,(1)公共財と私的財のバランス,(2)投資の地域間分配,(3)現代と将来世代間の資源配分,(4)不況期の有効需要創出による景気対策等としての諸観点から定められなければならない。しかも現実の決定は政治過程によるので,いかに〈公共選択〉制度が上述の規範的基準を反映するか,またいかにして反映させうるかが重要な問題である。
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執筆者:柴田 弘文
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…これは,企業が物的投資を行う資金を融資する点で間接的に物的投資と結びついている。
[主体,目的による分類]
投資は,それを行う主体および目的によって,公共投資(あるいは政府投資)と民間投資に分けられる。公共投資の主体は中央政府,地方政府などの公的機関である。…
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