日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ストルパー‐サミュエルソンの定理
すとるぱーさみゅえるそんのていり
Stolper-Samuelson theorem
外国貿易の自由化や関税の賦課が国内の所得分配にどのような影響を及ぼすかについて、W・F・ストルパーとP・A・サミュエルソンという2人の経済学者が、ヘクシャー‐オリーンの定理に基づいて明らかにした命題。ある国が外国に比べて相対的に労働が豊富で資本が希少であるとしよう。ヘクシャー‐オリーンの定理によれば、その国は労働集約的な産業に比較優位をもつ。外国貿易の開始は、その国の生産を労働集約的な産業に特化させ、労働集約的な財の生産の増加と資本集約的な財の生産の縮小を引き起こす。このような生産の再編成は、資本集約的な産業から労働集約的な産業への生産要素の移動を必要とする。しかし、資本集約的な産業から解放される生産要素に比べて、労働集約的産業で需要される生産要素は労働に偏っているため、資本の過剰と労働の不足が生じるであろう。したがって労働集約的産業への特化は、資本用役の価格(レンタル率)に比して労働用役の価格(賃金率)を上昇させるのである。賃金の相対的な上昇は、資本集約的な財に対して労働集約的な財の相対価格を上昇させる。こうして外国貿易の開始あるいは自由化は、その国が比較優位をもつ財(労働集約的な財)の価格の上昇と、その産業に集約的に投入される生産要素の価格(賃金率)の上昇をもたらす(関税が賦課され貿易が縮小する場合には、その逆)。これをストルパー‐サミュエルソンの定理という。
[志田 明]