所得分配(読み)しょとくぶんぱい(英語表記)income distribution

改訂新版 世界大百科事典 「所得分配」の意味・わかりやすい解説

所得分配 (しょとくぶんぱい)
income distribution

生産の成果が社会の各構成員に対してどのように分けられるかを示す経済学上の概念所得分配の問題は,限られた資源をどのような目的に,どのような方法で使用するかという資源配分の問題と並んで,基本的な経済問題のひとつになっている。分配問題と配分問題は密接につながっており,分配上の公平と配分上の効率とが衝突することも少なくない。

 分配問題は,分配の事実に関する分析を通して理解を深めようとする実証的分野と,公平・公正という価値判断に基づいて分配のルールや制度を評価・設計しようとする規範的分野とに分かれる。後者議論前者の分析結果を踏まえて展開される。実証的分析の主要テーマとしてこれまで取りあげられてきた問題は,つぎの三つである。(1)国民所得に占める雇用者所得・財産所得などの相対的シェアの決定および変動,(2)賃金・地代・利潤などの生産要素価格の決定,(3)各所得階層がどのような比率で分布しているか,および所得分布は平等化しているかどうかの解明。(1)については,かつて相対的シェアの長期的不変性を究明することが課題とされていた。しかし統計資料をみるかぎり,国民所得に占める雇用者所得の割合は経済成長の過程で増大してきた。この点の解明は経済成長理論枠組みの中で行われ,新古典派の学者は労働と資本との代替の弾力性に着目して説明している。(2)については,かつて交換や生産の理論とは別の説明が試みられたが,現代では労働・土地・資本財も財貨・サービスの一種であり,これらの生産要素に対する報酬(サービス価格)は各生産要素の市場における交換のプロセスによって決定されると考えられている。各生産要素への所得分配は所得の〈機能的分配〉とよばれ,その決定は価格理論の応用というスタイルによって基本的には説明されている。(3)は,所得の階層別分布を対象にしており,所得の〈人的分配personal distribution〉を扱っている。分配の平等・不平等は通常,このなかで議論される。

 他方,規範的分析では公正な分配とは何かを明らかにしなければならないが,それについての社会的合意は必ずしも得られていない。貢献分と必要性とのバランスのとり方が論者によって異なるからである。公正な分配は再分配政策によって確保することが期待されている。ただし所得の再分配には利害の対立が伴う。その調整は政治的プロセスのなかで図られている。
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