日本大百科全書(ニッポニカ) 「スーサイド」の意味・わかりやすい解説
スーサイド
すーさいど
Suicide
ニューヨークを活動拠点にしたパンク・ロック・ユニット。彫刻家志望だったアラン・ベガAlan Vega(1948― 、ボーカル)がマーチン・レブMartin Rev(キーボード、リズム・ボックス)と出会い結成。1970年代中期より勃興しつつあったニューヨーク・パンク・シーンで頭角を現す。モダン・アートのミニマリズムを彼らはロックに適用し、独自のスタイルを築き上げた。レブのリズム・ボックスの無機質なビートとノイジーなキーボードをバックに、ロックン・ローラーのパロディーのようなベガのボーカルが深いエコーの奥から響く彼らのサウンドは、デジタル・ロックやビッグ・ビート(ともにロックとテクノのサウンドを融合させた音楽)の早すぎた先駆であったともいえよう。ステージではレブがあらかじめ録音された伴奏の入ったカセットデッキのスイッチを押すだけであった一方、ベガはボンデージ系の衣装に身を包み絶叫しつつ鎖を振り回し、時には観客に危害を加えることもあったという。
『スーサイド』Suicide(1977)や『アラン・ベガ・マーティン・レブ』(1981)で聞くことのできる彼らの音楽は、当時のニューヨーク・パンクのなかでも異端であった。ベガとレブは80年ころよりそれぞれソロ名義で活動を開始、数枚のアルバムがリリースされている。スーサイド自体は解散状態であるが、その後も時折スーサイド名義のアルバムがリリースされるなど、ベガとレブの共同ユニット名として用いられている。
90年代になって、シンセサイザーでパンク的な衝動を表出するデジタル・ハードコア(パンクとヘビー・メタルの境界上にあるロック。アタリ・ティーンエイジ・ライオット等)が人気を得ると、スーサイドはその先駆と見なされるようになり、若い世代のバンドによるカバー・アルバム『クローン・オブ・スーサイド』(1999)や、音響派テクノのパンソニックとベガとの共演盤『エンドレス』(1998)などがリリースされている。
[増田 聡]