ベガ(読み)べが(英語表記)Lope Félix de Vega Carpio

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベガ」の意味・わかりやすい解説

ベガ(Lope Félix de Vega Carpio)
べが
Lope Félix de Vega Carpio
(1562―1635)

スペイン劇作家マドリードで生まれ、そこで死去した。

[菅 愛子]

生涯

スペイン黄金時代の演劇界でカルデロン・デ・ラ・バルカと双璧(そうへき)をなす彼は、セルバンテスが与えた呼称「自然の怪物」にふさわしく波瀾(はらん)に富んだ生涯を送り、劇作品だけで1500編を超えるとされるほどおびただしい数の作品を著した。著作と恋愛に情熱的で放縦(ほうしょう)に生きた彼は、12歳で初の芝居を書き、20歳で人妻との恋愛事件を起こしてマドリード追放の刑を受ける。数年後には別の女性と強引に結婚。ほどなく「無敵艦隊」に乗り組み艦中でも作品を書く。その後、アルバ公ほかの貴族に仕え、妻子に死別後さらにいくつかの恋愛を経て再婚、ふたたび死別、52歳で司祭に叙品(じょほん)されるが色恋沙汰(いろこいざた)はやまず、2年後に若い人妻女優と大恋愛。やがて彼女は盲目となり精神に異常をきたして死亡。3年後に彼が73歳で死去したとき、大作家としての評判は高く、人々はこぞって哀悼の意を表した。

[菅 愛子]

作品

彼は叙情性の豊かさで優れた作品が多く、小説では『アルカディア』(1598)や『ベツレヘムの牧人達(たち)』(1612)など牧歌的なもの、散文で対話形式を用いた『ラ・ドロテア』(1632)、さらに『ラ・ドラゴンテア』(1598)や無敵艦隊船上で書いた『麗しのアンヘリカ』(1602)などの叙事的な詩があり、独自の作劇法(ドラマツルギー)を示した『劇作新技法』(1609)は、アリストテレス規範に基づく従来の演劇形式を否定してスペイン国民演劇の基盤となった。多数の叙情詩もあるが、彼の本領は劇作品に発揮され、400編といわれる聖餐神秘劇(アウト・サクラメンタル)や聖史劇に加え、1日以内に即興的に書き上げたものが100編はあると自認するコメディアは韻文が用いられ、そのなかには、『まぬけお嬢様』(1613)で知られ「合羽(かっぱ)と太刀(たち)の劇」と称される風俗劇や、内外の史実や伝説に材を得たいくつかの名作がある。すなわち、『ペリバニェスとオカニャの地頭(じとう)』(1605~08)、王を正義の象徴とする『上なき判官これ天子』(1620~23)、同じく『フェンテ・オベフーナ』(1619)は村民の連帯が描かれた代表作だが、愛と死の戯れを叙情あふれる作品に著した『オルメドの騎士』(1615~26)も彼の資質がうかがえる秀作である。彼は興味ある楽しい筋立てのなかに体面(オノール)意識を取り入れ、女性を登場させて劇の進展に重要な役割をもたせたり、現実の鋭い観察者としての道化(グラシオーソ)の劇中での存在を確固たるものとするなど、スペイン演劇の伝統となる試みを実践した。

[菅 愛子]

『永田寛定訳『上なき判官これ天子』(『古典劇大系4』所収・1922・近代社)』『永田寛定訳『フェンテ・オベフーナ』(1948・日本評論社)』


ベガ(こと座)
べが
Vega

こと座のα(アルファ)星の固有名。アラビアで、こと座のζ(ゼータ)星とε(イプシロン)星とあわせて「落ちる鷲(わし) Al Nasr al Waki」とよんでいたが、その名称の後半部が変形した。漢名は織女星(しょくじょせい)、和名は織姫(おりひめ)といい、天の川を挟んで相対する牽牛星(けんぎゅうせい)(アルタイル)とともに、古来から、七夕(たなばた)の星として日本人には親しみ深い。日本では織姫のほか、棚機(たなばた)、棚機津女(たなばたつめ)ともよばれていた。夏の夜空で、わし座α星のアルタイル、はくちょう座α星のデネブと結んで「夏の大三角」をつくる。平均の実視等級は0.03等であるが、周期0.19日で0.09等以下の幅の変光を示している。天球上の位置は、2000年分点の座標で、赤経18時37分、赤緯プラス38度47分。地球からの距離は牽牛星の17光年よりはやや遠く、25光年ある。スペクトル型はA0型の主系列星。表面温度は約9500Kで、青白い光を放っている。質量、半径とも太陽の約3倍で、牽牛星(質量は太陽の1.7倍、半径1.8倍)よりはかなり大きい。毎秒14キロメートルで地球に近づきつつある。ベガで注目されるのは、塵(ちり)の雲が半径140天文単位もの円盤状に広がって取り囲んでいることである。これらの塵の雲はベガが星間雲から誕生したときに、星になりきれなかった塵粒子が大量に残されたためと考えられている。この塵雲のなかに惑星の存在の可能性を指摘する天文学者もいる。

[岡崎 彰]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベガ」の意味・わかりやすい解説

ベガ
Vega

こと座α星 (α-Lyr) の固有名。七夕の織女星 (おりひめ) のことで,全天の恒星のうちで3番目に明るい。ベガは「舞降りる禿鷹 (はげたか) 」という意味のアラビア名。見かけの明るさは 0.03等,スペクトル型は A0型,有効温度は 9600Kで,白色の主系列星である。星の直径および質量はともに太陽の約3倍,絶対光度は太陽の約 70倍に達する。地球からの距離は 26光年,固有運動は1年間に 0.345″で1万 400年間に1°動くことに相当し,また視線方向の速度は -14km/s である。地球の歳差のために,西暦1万 4000年には北極星となる。

ベガ
Vega Carpio, Lope Félix de

[生]1562.11.25. マドリード
[没]1635.8.27. マドリード
スペインの劇作家。冒険と情熱の波乱に富んだ生涯をおくりながら,1800編の戯曲と 400編以上の聖体秘跡劇のほか,あらゆる形式の詩集 21巻を書いてセルバンテスから「自然の怪物」と呼ばれた。彼は黄金世紀のスペイン演劇を創始し,あらゆるテーマを劇化したが,史劇では『ペリバニェスとオカーニャ騎士団長』 Peribáñez y el comendador de Ocaña,『フエンテ・オベフナ』 Fuente Ovejuna,喜劇では『マドリードの鉄鉱泉』 El acero de Madrid,『水がめの娘』 La moza de cántaroなどが有名。

ベガ
Vega, Garcilaso de la

[生]1501頃
[没]1536
スペインの詩人。文学,政治,芸術の分野で人材を輩出したトレドの旧家に生れ,ナポリのアルバ公に仕えて,スペインの伝統的形式にイタリア・ルネサンスの官能美を加味した詩を書いた。作品に『牧歌集』 Églogasがある。

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