センプルン(読み)せんぷるん(英語表記)Jorge Semprun

日本大百科全書(ニッポニカ) 「センプルン」の意味・わかりやすい解説

センプルン
せんぷるん
Jorge Semprun
(1923―2011)

スペインのフランス語作家。マドリード生まれ。共和政府の要人だった父親の外交官としての勤務の関係で、少年時代からハーグ、パリなどで教育を受ける。1937年からパリで亡命生活を始め、ソルボンヌ大学哲学科に在学中、共産党入党、第二次世界大戦勃発(ぼっぱつ)とともに対独レジスタンス運動に参加。1943年、ゲシュタポに捕らえられ、ドイツのブーヘンバルト強制収容所へ送られる。のちに脱走し、フェデリコ・サンチェス偽名でスペイン共産党秘密工作員となり、1953年、党のリーダーとなるが、1964年に除名され、以後、フランスで作家として活躍した。

 代表作『ラモン・メルカデルの第二の死』La deuxième mort de Ramón Mercader(1969。フェミナ賞受賞)は、トロツキー暗殺の史実を素材として、二重スパイ、尾行処刑、暗殺などのスパイ小説の形をとりながら、20世紀の動乱に生きる人間の恐怖と運命を劇的に描く。人間を疎外する冷たい風景、語り手の意識のなかで過去と現在が複雑に錯綜(さくそう)する文体には、同時代の「ヌーボー・ロマン」の影響が感じられる。『なんと美しい日曜日!』Quel beau dimanche!(1980)は、ナチス強制収容所での過酷な日々を追体験しながら、歴史と人間存在の意味を問い直している。ほかに長編小説『大いなる旅』Le grand voyage(1963。フォルメントール賞受賞)、『白い山』La montagne blanche(1986)、映画シナリオ『戦争は終わった』La guerre est finie(1966。アラン・レネ監督作品)、『Z』Z(1968。コンスタンチン・コスタ・ガブラスConstantin Costa-Gavras(1933― )監督作品)、記録文学『フェデリーコ・サンチェス回想録』Autobiographie de Federico Sanchez(1977。プラネタ文学賞受賞)、そしてセンプルンがシナリオを書いた『戦争は終わった』などの映画に出演した俳優イブ・モンタンの伝記『イブ・モンタン、人生は続く』Montant, la vie continue(1983)などがある。

[榊原晃三・小倉孝誠]

『榊原晃三訳『ラモン・メルカデルの第二の死』(1971・新潮社)』『緑川かおる訳『フェデリーコ・サンチェス回想録』(1979・柘植書房)』『榊原晃三訳『なんと美しい日曜日!』(1986・岩波書店)』『宇京頼三訳『ブーヘンヴァルトの日曜日』(1995・紀伊國屋書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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