日本大百科全書(ニッポニカ) 「ただごと歌」の意味・わかりやすい解説
ただごと歌
ただごとうた
歌論用語。「ただこと歌」とも。『古今集』の「仮名序」で、「六義(りくぎ)」の一つに、「いつはりのなき世なりせばいかばかり人の言(こと)の葉(は)うれしからまし」の歌を例に引いて、掲出されている。詩論の「雅(が)」に相当し、古注では「事の整(ととの)ほり、正しきをいふなり」と道義を詠んだ歌と解しているが、しだいに譬喩(ひゆ)などは用いずに、日常のことばで直叙したものと解されるようになった。『歌経標式(かきょうひょうしき)』の「俗人ノ言語ト異ナルコト無シ」という「直言(ただごと)」や、『土佐日記』の「なぞ、ただごとなる」に通じるものがある。小沢蘆庵(ろあん)の、歌とは、「ただ今思へることを、我が言はるる詞(ことば)をもて、ことわりの聞ゆるやうに言ひ出(い)づる」(『布留(ふる)の中道(なかみち)』)ものでなければならない、という歌論で、実作の目標となった。
[小町谷照彦]