翻訳|turban
亜麻,木綿,絹などの長短いずれかの布をスカーフ状に折りたたんで頭に巻いた頭飾をいう。その形状,素材,サイズ,色などは地域,時代により多種多様である。
古代インドではウシュニーシャuṣṇīṣaと呼ばれるターバンが用いられた。前1000年ころのベーダ文献によれば,それは短い布を簡単に結んだものと,長い布を独特の形に結んだものの2種類あったと思われる。短いものの中には,インドラ神妃の独特の持物とされた,女性用のヘアバンドも含まれる。王族は長いものを用いたが,即位式にはとくに白いターバンを着ける儀礼が行われた。また王族に仕えた御者たちや,ブラーティヤと呼ばれた特殊な宗教家集団は,それぞれに独特なターバンを用い,その集団の徴標(しるし)としていた。一方,紀元前後の仏教遺跡の浮彫などからは,農民,商人,王族または象使い,軽業師たちがさまざまなターバンを用いていたことが知られる。中世には侵入したイスラム教徒のターバンが目だつが,ヒンドゥー教徒が用いなくなったわけではない。王権の象徴として,赤いターバンを牛などとともに,宮廷祭官の謝礼に贈ることも行われた。現在,ヒンドゥー教徒はあまりターバンを用いなくなっている。その中でシク教徒の獅子派と呼ばれる人々は,第10祖ゴービンド・シングの定めた五つの戒律に従って,その一環として,毛髪やひげを切らずに,日に2回髪をくしけずり,それを頭の上に巻き上げ,その上にターバンを巻く習慣を守っている。
執筆者:高橋 明
アラビア語ではイマーマ`imāmaと呼ばれ,普通ターキーヤṭāqīyaという頭にきっちりはまる木綿の丸帽をかぶり,その上に巻くが,これは汗を抑える効果がある。ターバンはその色によって,宗派,家系,王朝,職能を区別する機能をもった。たとえばアッバース朝では黒,ファーティマ朝では白いターバンが使われた。時代がより近くなると,白地のターバンはアズハルで学んだシャイフ層および農村部の老人が一般に使った。黒地はコプト教徒,ユダヤ教徒,エジプトの民族運動指導者であるサード・ザグルールの支持者,さらにリファーイー教団のデルウィーシュのターバンの色となった。緑色は預言者ムハンマドの子孫を示す色となり,赤色はバイユーミー教団のデルウィーシュのシンボルとなった。近代になるとターバンを巻く者をムアンマムといい,保守伝統派をなし,一方タルブーシュ帽(トルコ帽)をかぶる者はムタルバシュと呼ばれ,進歩派となり対立がみられたが,トルコでもケマル・アタチュルクが宗教人以外にはターバンを廃止させ,エジプトでは現在アズハルのシャイフや農村部の老人層が着けるのみとなった。
執筆者:奴田原 睦明
ヨーロッパで,このように長い布を巻いたかぶり物が婦人帽として流行したのは,19世紀の初期である。ナポレオンが,エジプト遠征からフランスへ帰国の際に持ち帰ったのが初めとされている。第一帝政時代に流行した,古代ギリシア風のほっそりとしたエンパイア・スタイルには,このターバンがよく調和した。夜間用には真珠,宝石を散らした豪華なターバンが大流行した。1909年,パリのオペラ座でバレエ・リュッスの《シェエラザード》を見たオート・クチュールのデザイナー,P.ポアレは,レオン・バクストの舞台衣装に魅せられ,11年に登場人物のハレムの女性たちの衣装をヒントに,裾のすぼまったホブル・スカート(ホブルはよちよち歩きの意)を発表した。このとき,このスタイルに添えた白いサギの羽根をつけたターバンが,新しく流行した。以来,頭頂部の周囲にやわらかい布地でひだを寄せてまとめたターバンは,現代ファッションの中でも,流行に関係なく頭飾として愛用されている。
執筆者:大浜 治子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(1)おもに中近東の男子イスラム教徒を中心とした被(かぶ)り物で、細長い布や、地方によっては四角い布を、頭部に直接巻き付けたり、半球状の帽子などの上から巻き付けて形づくる。素材は、絹、木綿、羊毛、麻などの薄手のもので、長さ5~7メートルを用い、色や巻き方によって、社会的地位や職業、民族などの違いが現れる。巻いた布の端は、内側に押し込んだり、一方だけ垂らしておいたりする。この布はターバンスカーフともいう。(2)婦人用帽子で、18~19世紀に現れたターバンに似た形のもの。ナポレオンが第一帝政時代にエジプトへ遠征し、羽飾りや豪華な材質をもたらした影響を受け、柔らかい布製で頭部にぴったりした形の帽子に、ターバンのようなひだづけをしたり、プリーツをとったりして羽や植物を飾った。同じようなターバン状の帽子は、1930年代から40年代にも現れているが、それ以後50年代にも服のデザインにあわせてかぶられた。また70年代になって一時流行したことがある。ターバンハットともいう。(3)中米を中心に現地の女性が、ターバン状にしてかぶる色鮮やかな四角い大きな布。
ターバン状に布を頭に巻くのは、紀元前のオリエントにすでにみられるが、ペルシアのミトラがターバンの原型であるという説もある。ターバンはトルコ語のtürbendやペルシア語のdulbandから発した語で、古い英語では、torbantといった。
[浦上信子]
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