精選版 日本国語大辞典 「帽子」の意味・読み・例文・類語
ぼう‐し【帽子】
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防寒・防暑または礼装,装飾を目的としたかぶり物。その発生の歴史は古く,種類も多様である。クラウン(山の部分)とブリム(つば)からなるハットhat,頭巾型のフードhood,つばのないキャップcap,ひさしがつきあごで結ぶボンネットbonnetなどが基本型といえよう。
頭に何物かをかぶるという習慣は古くから発生していた。しかし,それは現代の帽子とは多分に異なった意味をもっていた。宝石,貴石,金などを素材としたエジプトのかぶり物は,王侯貴族の権威の象徴と呪術的な意義をもっていた。亜麻布のクラフトkraft(頭巾)は,防暑に通気性を考慮した鬘(かつら)とともにすべての人々が使用したかぶり物であった。下層民はフェルトや皮製のぴったりした半球型の帽子を用いた。西アジア,とくにペルシアの王侯貴族は,ししゅうに金,真珠,宝石などをちりばめたマイターmiter(幅広い飾りバンド)やティアラtiara(クラウンの高い冠),また一般にはフェルトやウール製のフリュギア型ボンネット,トークtoque帽がヘルメットとともに登場した。ベールはメソポタミアで始まり,後に女性の従順,貞淑のシンボルとなった。ギリシア人によって作られた青銅・シンチュウ(真鍮)製のヘルメットはローマに伝わり,美しい馬のたてがみを加えて威圧感を強調した。男性はつばの広い麦わら製のペタソスpetasosをかぶった。類似した形のトリアtholiaは女性用で,アシ(葦)の茎,麦わらなどで作られた。そのほかベレー,フード,ピルボックス,フリュギア帽などがいずれもローマに受け継がれ流行していった。これらはいずれも今日の帽子の原型といえる。皇帝,凱旋将軍の頭上を飾った月桂樹の冠は,多くの国々を征覇したローマの象徴であった。キリスト教が普及すると,罪の聖化として女性は頭をベールでおおうようになり,この風習は16世紀まで続いた。
ビザンティン帝国の王侯貴族は,光り輝く衣服とともに金を土台に宝石,貴石,真珠をふんだんに配した冠を用いた。女性は宗教的意味からベールで頭をおおうことを常とした。西欧ではビザンティンの影響を受け,衣服もかぶり物もしだいに華やかさを増した。なかでも15世紀フランスのブルゴーニュ宮廷で用いた円錐形のヘナン帽henninは高さが40cmから1mにも及んだ。これは当時のゴシック建築の尖塔の形を反映したものといわれている。その他エスコフィオンescoffion(ロール形のかぶり物でターバン型,ハート型など),シャプロンchaperon(肩まで垂れ下がった頭巾),リリパイプliripipe(細長い紐状の垂れ飾り)付きのフードなど,いずれも複雑な形とぜいたくな素材で装飾をこらしたものが多かった。
ルネサンス時代の衣服やかぶり物はたいへん美しい造型を見せていることが,当時の肖像画からうかがうことができる。とくにヘンリー8世と6人の妃たちの肖像画におけるかぶり物は見事な美しさである。また男子のベレーは,当時の衣服と同じようにスラッシュ(切り込み)を入れるなどデザインに多くの変化を見せている。枢機卿および知識階級のかぶったビレッタbirettaの一種は,後世,大学生の角帽となった。17世紀オランダの隆盛に続いてフランス宮廷がモードの中心地となると,大きな髪形と鬘への関心が高まるなかで,フェルトやビーバーの毛皮で作られ,ダチョウの羽根飾が付いたつばの広い帽子に人気が集まった。17世紀後半は洗練された男子服にトリコルヌtricorne(三角帽)が登場し,女子にはフォンタンジュfontangeと称するローンとレース製の髪飾が当時を代表した。18世紀はぜいたくをきわめた衣装とともに,最新流行のパリ製帽子が求められた。とくに18世紀後半,横に広がった衣装(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)が小さくなるとすべてのポイントが頭上にのぼり,全身の真ん中に顔が位置するほど高い髪形とそれを包む巨大なフードやボンネットが流行した。それらはチュールやモスリンなどで作られ,リボン,ループ,レース,造花で飾られた。男子用はトリコルヌがほとんどであった。
フランス革命後はギリシア・ローマへのあこがれから,古典古代のスタイルが流行し,第一帝政時代にちなんでエンパイア・スタイルと呼ばれた。単純な服に単純な帽子が好まれ,ターバン,キャップ,コルネット,ボンネットが用いられた。ロマンティック時代(1815-40)には,なで肩を強調したドレスに大きいブリムの帽子をかぶり,華やかな羽根,タフタのリボン,造花を飾った。その後第二帝政時代(1852-70)になるとスカートはピラミッド型を形成し,その円周は5mにも及んだ。これらを効果的に見せるため帽子は対照的に小さくまとめられ,キャップ,ボンネット,ビビbibi型などになった。男子はクラウンの高いシルクハット,メロン形のフェルト帽,スポーツ用キャップなどを用いた。世紀末のバッスル・スタイルでは,特徴あるドレスのシルエットに調和させた小さい帽子を前方に傾斜させて用いた。羽根,リボン,造花など多様な素材を巧みに組み合わせて形づくった小粋な帽子であった。世紀末最後の10年間は,男性は絹製のシルクハットを正装用として用い,ダービー・ハット(フェルト帽)を通常とした。麦わらのボーターboater(カンカン帽)やパナマ帽が夏用として流行した。アール・ヌーボーの影響でS字形のシルエットに形づくられた女子服に用いた帽子は,大小を問わずダチョウの羽根,鳥の剝製,蝶結びなどを頭の上に直立させて飾っていた。
1907年ころまで途方もない大きい帽子が頭の上に据えられた。以後はしだいに小型化しクローシェcloche,トーク,セーラー・ハット,ターバンなどが登場し,第1次大戦後の新しいファッション期を迎える。男子はシルクハット,ソフト帽などを中心にスポーツ帽がしだいに多く用いられていく。1920~30年,女性の社会的進出に伴い衣服は合目的性,機能性が求められた。帽子もクローシェ,ベレー,ハットなどいずれも単純化された美しい形の帽子を,同じく単純なシルエットの服に組み合わせるようになった。生活の合理化により,礼容としての帽子の需要は減少し,単なるアクセサリーや実用としての役割が今後はますます考えられていくことになろう。
欧米の帽子が日本に導入されたのは,洋服を着用しはじめた19世紀半ばころで,シルクハットが最初であった。大正から昭和初期にかけて帽子が流行し,夏には上流階級ではパナマ帽,庶民はカンカン帽をかぶった。また,山高帽,中折帽,ハンチング,ベレーも愛好された。女子の場合は明治の鹿鳴館時代に,バッスル・スタイルのドレスとともに輸入され,貴族の女性たちの頭上を飾った。以来洋装の普及とともに一般の女性にも広まったが,男性の帽子のような流行は見られなかった。今日では男女ともにほとんど用いられなくなっているが,日よけ,防寒のためやスポーツ用として定着している。
→被り物(かぶりもの)
執筆者:大浜 治子
(1)仏事の装束名。牟子とも書く。白羽二重などの幅広く長い裂地(きれじ)の両端を縫い合わせて輪状にしたもので,これを畳んで形を整え,首をとおして襟に掛ける。防寒用の被服から出発して儀礼の衣帯(えたい)となったものなので,一定の資格以下の者は使用できないとか,夏季には使用しないとか,宗派によるきまりがある。また管長その他の高位の僧が頭上からかぶる宗派もある。縹帽子(はなだぼうし)という別称があり,能装束の花帽子(はなのぼうし)という名はこれから出たというが,実際に縹色(青色)の帽子を用いることがあるのは,真言系諸宗だけである。宗派により襟巻,裹頭(かとう),領帽(りようぼう),護襟(ごきん)などと称されることもある。また,金襴等で製し,頭上にいただく被り物があり,禅系,浄土系,法華系等中世以降に興った諸宗派で使用する。導師だけが用いるとか,職衆(しきしゆう)全員が用いるとかというきまりは宗派によって異なる。この帽子は,形状の異なる数種があり,立帽子,鼓山帽子,利休帽子(利久帽子),誌公(しこう)帽子,燕尾帽子などと呼称され,禅系ではモウスとも発音する。
執筆者:横道 万里雄(2)歌舞伎の鬘(かつら)の付属品。女方が額の生えぎわを隠すようにつけている裂。羽二重の鬘が考案される以前,蓑(みの)で作られた生えぎわの不自然さを見せないために考えられたもののなごりで,古風な味とともに色気も感じさせる。《鳴神》の絶間姫,《伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)》の政岡がつける紫ちりめん,《仮名手本忠臣蔵》八段目の小浪がつけるびらり帽子,同じく六段目のおかやがつける茶の婆帽子などのほか,頭全体を包む外出用の花見帽子がある。
執筆者:木村 雄之助
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[被り物]
衣帯としての被り物には,一定の形状に作った冠帽を頭に頂くものと,無地の裂の両端を縫い合わせて輪状にした布を着装するものとがある。前者には,誌公(しこう)帽子,燕尾(えんび)帽子,水冠(すいかん)などいくつかの種類があり,主として浄土宗や禅系諸宗で用いられる。後者は,単に帽子とも,花帽子(はなのぼうし),縹(はなだ)帽子とも称し,諸宗で用いるが,これを頭上からすっぽりかぶる着装法と,襟巻のように襟の部分に掛ける着装法とある。…
…被り物は身分や役割のはっきりしている社会,また文化の爛熟期に発達している。
【日本】
冠,帽子,頭巾,笠,手ぬぐいなどの種類があり,材料としては絹,麻,木綿,ラシャ,紗,紙,藺(い),菅(すげ)などが用いられている。時代,身分,地域により独自の形態や用途がみられる。…
※「帽子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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