チオシアン酸水銀(読み)チオシアンサンスイギン

化学辞典 第2版 「チオシアン酸水銀」の解説

チオシアン酸水銀
チオシアンサンスイギン
mercury thiocyanate

Hgの塩Hg2(SCN)2と,Hgの塩Hg(SCN)2がある.チオシアン酸水銀((Ⅰ)または(Ⅱ))はIUPACが認める慣用名.付加方式体系名はビス[ニトリドスルフィド炭酸(1-)]二水銀(2+),ビス[ニトリドスルフィド炭酸(1-)]水銀(2+).チオシアン化水銀,ロダン化水銀,ロダン酸水銀,硫シアン化水銀,硫青酸水銀など,多数の通俗名がある.【】チオシアン酸水銀(Ⅰ):Hg2(SCN)2(517.35).硝酸水銀(Ⅰ)の硝酸水溶液に,KSCNの水溶液を加えると沈殿として得られる.感光性があり,加熱しても分解する.水に不溶,HClに可溶.KSCN水溶液ではHg (SCN)2とHgに分解する.【】チオシアン酸水銀(Ⅱ):Hg(SCN)2(316.76).硝酸水銀(Ⅱ)と計算量のKSCNとを水溶液中で混合,冷却し,沈殿として得られる.無色の単斜晶系針状結晶.Hgは2個のSCNのS原子と直線状にS-Hg-S結合しているが,∠Hg-S-Cは98°で,Hgのまわりに隣接の4個のSCNのN原子4個を赤道面上,S原子2個を軸方向にもつ八面体型六配位に近い構造である.冷水に難溶.熱水にかなり溶けるが分解していく.KSCN水溶液には,[Hg(SCN)4]2- を生成して溶ける.ゴム,砂糖などを加え,固めて乾かした粒子は,点火すると体積をいちじるしく増大し,ヘビに似た動きとともにヘビ状のひも形になるので,Pharaoh's serpent(ファラオの蛇)とよばれ,19世紀の玩(がん)具であったが,水銀蒸気を発生するので危険である.水銀及びその化合物は化学物質排出把握管理促進法第1種指定化学物質,毒物及び劇物取締法・毒物,労働安全衛生法・名称等を通知すべき危険物及び有害物.[CAS 592-85-8]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のチオシアン酸水銀の言及

【チオシアン酸】より

…Fe3+イオンの検出(弱酸性溶液中で鉄(III)塩により赤色を呈する)や銀の容量分析など,分析試薬として使うことが多い。
[チオシアン酸水銀mercury thiocyanate]
 水銀(I)塩Hg2(SCN)2は光や熱に対して不安定で分解しやすい無色の結晶。水銀(II)塩Hg(SCN)2は165℃で分解する針状結晶。…

※「チオシアン酸水銀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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