日本大百科全書(ニッポニカ) 「チオ硫酸塩」の意味・わかりやすい解説
チオ硫酸塩
ちおりゅうさんえん
thiosulfate
チオ硫酸H2S2O3の塩。遊離の酸と酸性塩MIHS2O3は知られていない。正塩MI2S2O3のみがいろいろな方法で得られる。たとえばナトリウム塩は亜硫酸塩(固体または水溶液)を硫黄(いおう)と熱するか、ポリ硫化物Na2Snの空気酸化で得られる。
Na2SO3+S
=Na2S2O3
2Na2S5+3O2
=2Na2S2O3+6S
ポリチオン酸塩とアルカリとの反応によっても得られる。
チオ硫酸イオンS2O32-は、硫酸イオン(4個の酸素原子からなる正四面体の中心に硫黄原子が位置する)の1個の酸素原子を硫黄原子で置換した構造をもっている。それゆえ2個の硫黄原子は等価ではなく、中心の硫黄原子の酸化数は+Ⅵ、もう一つの硫黄原子は-Ⅱである。チオ硫酸塩の水溶液を酸性にすると硫黄の乳状沈殿を生じて分解する。
H2S2O3
―→S+SO2+H2O
チオ硫酸イオンは還元作用をもつ。強力な酸化剤たとえば塩素によって硫酸塩に酸化される。この反応は漂白の際、除塩素の目的に用いられる。また、ヨウ素と定量的に反応してテトラチオン酸イオン-O3S-S-S-SO3-を生じるので、チオ硫酸ナトリウムはヨウ素滴定法の試薬として用いられる。
2SSO32-+I2
―→2I-+S4O62-
チオ硫酸イオンは金属イオンに配位して可溶性のチオスルファト錯体を生成する。ハロゲン化銀との反応は写真の定着に用いられる。
AgBr+2Na2S2O3
=NaBr+Na3[Ag(S2O3)2]
がその反応である。
[守永健一]