定着(読み)テイチャク(その他表記)fixing

翻訳|fixing

デジタル大辞泉 「定着」の意味・読み・例文・類語

てい‐ちゃく【定着】

[名](スル)
ある場所位置に、ぴったりとつくこと。一定の所に落ち着くこと。「従業員定着しない」
しっかりと根づくこと。人々の間に浸透し、なじむこと。「ファーストフード定着する」
写真で、現像した画像を安定させるための処理をすること。フィルム印画紙の未感光部分の感光剤を薬品で除去し、再び感光するのを防止する。
[類語](1接着癒着密着/(2落ち着く収まる居着く腰を据える

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精選版 日本国語大辞典 「定着」の意味・読み・例文・類語

てい‐ちゃく【定着】

  1. 〘 名詞 〙
  2. きまった場所・地位などにしっかりとつくこと、または、つけること。また、その場にとどまって動かないこと。固定すること。
    1. [初出の実例]「其画より退ぞき離れ、筆を長条の頭に定着(〈注〉ツケ)し」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉五)
    2. 「やがて農作時代に入って、人間は特定の地域に定着した」(出典:砂の上にて(1952)〈竹山道雄〉)
  3. 社会一般に認められて定まったものとなること。しっかりとねづくこと。また、周囲になじみ、一体となること。
    1. [初出の実例]「この一節ほど私の考えている自然主義的人間観というものを一種露骨に定着させている文章もめずらしい」(出典:女房的文学論(1947)〈平野謙〉)
  4. 写真で、現像した像が変化しないように処理すること。銀塩写真では、未露光部分のハロゲン化銀を洗い流す操作。電子写真ではトナー(複写機用インク)を熱で融着させること。
    1. [初出の実例]「右液を乾板に定着(テイチャク)せしむ」(出典:風俗画報‐二五三号(1902)人事門)

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改訂新版 世界大百科事典 「定着」の意味・わかりやすい解説

定着 (ていちゃく)
fixing

撮影済みの感光材料を現像した後,感光層中の残存感光物質を除去して画像を安定にする処理のこと。一般の写真,映画で使用するフィルムは黒白写真,カラー写真ともに感光物質としてハロゲン化銀を用いている。カメラ撮影によって露光されたフィルムは還元性有機化合物を含む現像液現像し,感光したハロゲン化銀を銀に還元して画像を作る。現像を終わったフィルムの感光層には銀の画像,カラー写真の場合は銀と色素の画像が作られ,感光しなかったハロゲン化銀もそのまま含まれている。この状態でフィルムに光を当てると残存ハロゲン化銀は感光し,黒化して先に作られた画像は識別しにくくなってしまう。このため現像後に残存するハロゲン化銀を水溶性銀塩に転換し,水洗してフィルムから除去する必要がある。このハロゲン化銀を可溶性銀塩に転換する処理が定着で,定着処理に使う処理液を定着液という。

写真フィルム中のハロゲン化銀を水溶性銀塩に転換する定着剤として,チオ硫酸ナトリウム(ハイポhypo)およびチオ硫酸アンモニウムが広く使われる。また,チオシアン酸塩,チオ尿素シアン化カリウムなどもハロゲン化銀を可溶化する作用がある。通常,写真の定着液としてチオ硫酸ナトリウム240~400gを水1l溶解した溶液が使われ,チオ硫酸ナトリウムの分解を防ぐ目的で少量の亜硫酸ナトリウムを加え,また酢酸を加えて酸性にして使用する。定着液には写真感光層のゼラチンを硬化させて傷がつかないようミョウバンなどの硬膜剤を加えることが多いが,このような定着液を硬膜定着液という。また,定着剤としてチオ硫酸アンモニウムを使用,あるいはチオ硫酸ナトリウムと塩化アンモニウムを併用すると定着速度が速くなり,迅速な仕上げが行われる。この定着液を迅速定着液という。定着液の処方はフィルム製造会社から種々の処方が示されており,また調合した定着剤も市販されている。

定着の処理によってハロゲン化銀を可溶性の銀錯体に転換する反応は次のように化学式で表される。

 AgBr+S2O32⁻─→AgS2O3⁻+Br⁻

 AgS2O3⁻+S2O32⁻─→Ag(S2O323

ここに生成するチオ硫酸銀は水溶性であって,フィルムを定着後,水洗することによって銀塩が感光層から除去される。チオ硫酸銀錯体としては,銀とチオ硫酸イオンが種々の組成で結合した化合物が見いだされており,可溶性塩としてNa5[Ag(S2O33],Na3[Ag(S2O32],Na5[Ag3(S2O34]などが知られている。実際の定着処理においてハロゲン化銀が可溶性銀錯体に転換するには若干の時間を要し,フィルムを定着液に浸して完全に透明になるまでの時間の約2倍の時間定着処理を行う。

定着を終わったフィルム,印画紙は流水で水洗して可溶性銀塩を感光層から除去する必要がある。銀塩が感光層中に残存していると画像が変色したり退行することがある。水洗は流水で30分から1時間程度行うが,タンクやバットを使ってときどき新鮮な水に交換する方法もある。長期間保存する印画やマイクロ写真などでは,写真層中の残留ハイポが1dm2当り1mg以下が要求される。感光材料が十分水洗されたか否かを判定するには残留ハイポ試験,あるいは残留銀試験を行う。残留ハイポ試験は一例として,硝酸銀7.5g,酢酸(28%)125mlを水に溶解して1lとした試験液の1滴を水洗後の印画に滴下し,2分後にぬぐって水洗し,汚染が現れれば水洗不足と判定する。感光材料中の残留ハイポを駆除するには過酸化水素,クロラミンなどの酸化剤からなるハイポ駆除剤を使う方法がある。

 なお,定着の代替法として,感光材料の未感光ハロゲン化銀を除去する代りにチオシアン酸塩,チオ尿素などで処理して銀塩を安定な塩に変える処理法があり,これを安定化法という。
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化学辞典 第2版 「定着」の解説

定着
テイチャク
fixation, fixing

ハロゲン化銀写真において,現像後未露光または未現像のハロゲン化銀を除去し,白色光に対して安定な写真像にかえる操作をいう.定着剤としては,通常,チオ硫酸ナトリウムが使われ,そのほかゼラチンを硬化させるために酢酸やミョウバンを加えて定着液とする.チオ硫酸ナトリウムは,ハロゲン化銀とNaxAgy(S2O3)(xy)/2の組成の化合物をつくる.このうち,x = 3,y = 1のものおよびx = 5,y = 1のものは安定な錯化合物で水溶性である.チオ硫酸ナトリウムが25% 以下の定着液ではx = 3,y = 1,50% 以上の定着液ではx = 5,y = 1のものが多く生じる.ハロゲン化銀以外の写真法でも感光または現像した画像を安定化する過程は定着とよばれる.電子写真の定着は粉末像を熱で支持体に融着することが多い.湿式現像では,通常,特別の操作なしで画像は安定である.そのほかの写真法では感光成分の破壊,揮発などの方法が採用される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「定着」の意味・わかりやすい解説

定着【ていちゃく】

露光済みの感光材料を現像したのち,還元されずに残っている未感光部分のハロゲン化銀を定着液で処理して溶解除去する過程。定着することにより感光性はなくなり画像が安定化される。

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損害保険用語集 「定着」の解説

定着(車両保険・付属品)

ボルト・ナット・ねじ等で固定されており、工具等を使用しなければ容易に取り外せない状態をいいます。

出典 自動車保険・医療保険のソニー損保損害保険用語集について 情報

世界大百科事典(旧版)内の定着の言及

【写真】より

…この発明は政府から年金を受ける約束で,39年8月19日にフランス学士院における科学アカデミーと美術アカデミーの合同会議の席上で公表され,この日をもって写真誕生の日とされている。ダゲールは,感光板を現像したのちチオ硫酸ナトリウム水溶液で処理して未感光ヨウ化銀を除去すると画像が変色せずに保存できること,すなわち定着されることも見いだした。ダゲールの方法は,ダゲレオタイプdaguerreo typeと呼ばれ,撮影,現像,定着という今日の写真のプロセスをすべて織り込んでいる写真の原型である。…

※「定着」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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