チオ硫酸ナトリウム(読み)ちおりゅうさんなとりうむ(英語表記)sodium thiosulfate

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・わかりやすい解説

チオ硫酸ナトリウム
ちおりゅうさんなとりうむ
sodium thiosulfate

チオ硫酸のナトリウム塩。チオ硫酸ソーダともいう。化学式Na2S2O3式量158.1。五水和物は俗にハイポとよばれるが、これはチオ硫酸塩が古くは次亜硫酸塩hyposulfiteとよばれたことに由来する。亜硫酸ナトリウムの水溶液に粉末硫黄(いおう)を加えて煮沸し反応させたのち、加熱濃縮すれば五水和物として析出する。硫化ナトリウムと二酸化硫黄との反応、多硫化ナトリウム亜硫酸水素ナトリウムとの反応によっても得られる。五水和物結晶は空気中では安定であるが、冷たい空気中ではいくぶん潮解し、乾燥した空気中では風解する。48.2℃で結晶水の中に溶けて液状となる。水に溶けやすく、その際多量の熱(11kcal/mol)を吸収する。チオ硫酸ナトリウムは容易に酸化されて硫酸塩やポリチオン酸塩に変わる性質があるので、強い還元剤として働く。たとえばヨウ素と次の式に従って定量的に反応するので、ヨウ素滴定法の試薬となる。

  I2+2Na2S2O3→2NaI+Na2S4O6
 また、ハロゲン化銀と反応して水溶性の銀錯塩をつくるので、写真現像の際の定着剤として用いられる。水溶液は塩素を吸収する。

  Na2S2O3+4Cl2+5H2O→2NaCl+2H2SO4+6HCl
 そのほかメチレンブルーなどの染料原料高級紙の脱塩素剤、クロムなめしにおける重クロム酸塩の還元剤、また重金属中毒妊娠中毒などの解毒剤として用いられる。

[鳥居泰男]


チオ硫酸ナトリウム(データノート)
ちおりゅうさんなとりうむでーたのーと

チオ硫酸ナトリウム五水和物
  Na2S2O3・5H2O
 式量  248.2
 融点  48.45℃
 沸点  ―
 比重  1.1715(測定温度27℃)
 結晶系 単斜
 屈折率 (n) 1.4886
 溶解度 74.7g/100g(水0℃)
     301.8g/100g(水60℃)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チオ硫酸ナトリウム」の意味・わかりやすい解説

チオ硫酸ナトリウム
チオりゅうさんナトリウム
sodium thiosulfate

化学式 Na2S2O3 。亜硫酸ナトリウム溶液に硫黄を加えて熱すると容易に生成する。溶液を加熱濃縮すると結晶を析出する。5水和物はハイポとも呼ばれる無色の単斜晶系柱状結晶で,水,アンモニアに可溶,アルコールに難溶。比重 1.69,融点 48℃。 100℃で無水塩になる。遊離ハロゲンと反応するので,ハロゲンの除去剤として有用。写真 (ハイポ。現像定着剤) ,染料 (メチレンブルー) ,製紙 (除塩素剤) ,クロムなめし,漂白などに広く用いられる。また,解毒剤の1つで,シアン化合物と結合して毒性の少いチオシアン酸塩 (ロダン塩) を形成し,解毒効果を現す。シアン化合物中毒のほか,ヒ素,水銀,鉛などの重金属中毒や妊娠中毒症に対しても有効。おもに8~10%水溶液を筋肉注射や静脈注射により投与する。内服して胃障害を起さないような錠剤もつくられている。

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