改訂新版 世界大百科事典 「チシマゼキショウ」の意味・わかりやすい解説
チシマゼキショウ
Tofieldia coccinea Richards.
高山の岩場に生えるユリ科の多年草。北半球の寒帯・亜寒帯域に広く分布する。植物地理学上,周北極要素と呼ばれるものの一例である。茎は高さ5~15cmで,セキショウに似た線形の葉を2列互生し,上部に密な総状花序を出す。花は通常斜め下を向いて咲く。花被片は小型で,白色または淡紫色。めしべは3枚の心皮から成り,心皮の上部は離れている。これは多くの被子植物にみられる,子房が進化する途中の原始的な段階を示すものである。この性質から,チシマゼキショウ属はユリ科の中で最も原始的な植物の一つに数えられている。
チシマゼキショウ属Tofieldia(英名false asphodel)は北半球に広く分布し,約20種がある。南アメリカ高地からも数種が知られている。日本には5種ある。イワショウブT.japonica Miq.は亜高山,高山の雪田群落や湿原に多く,白色の花穂が美しいのでしばしば栽培される。ハナゼキショウT.nuda Maxim.(一名イワゼキショウ)は関東以西の太平洋岸の山地の湿った岩上に生育し,中部地方では風邪薬として用いられる。セキショウに似た線形の葉を平面的に展開する性質があり,山草家の間では岩付用の素材としてしばしば栽培される。
執筆者:矢原 徹一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報