改訂新版 世界大百科事典 「ティリュンス」の意味・わかりやすい解説
ティリュンス
Tiryns
ミュケナイ文明の典型的な城塞の遺跡。ペロポネソス半島のアルゴリス湾東岸に近い東西60~100m,南北約300mの靴底形をした丘の全体を,巨石で築いた厚い城壁でかためる。城内は南半と北半に分かれ,南部が宮殿部分。丘の東側の斜路を登ると厳重な城門に通じ,それから第1,第2の楼門をへて,ようやく柱廊に囲まれた中庭に面する大メガロンに達する。この建物に玉座があり,間口12m,奥行25.5m。中央にある炉は直径約3.3m。これに接して大浴場,婦人メガロン,小メガロンその他の独立建物が集まる。この城塞は壁画で飾られ,官女の行列,戦士たちと馬,狩りや牛跳びなどの壁画は,断片ながらミュケナイ絵画の代表作である。なお厚い城壁の東面と南面には見張り窓をもつ地下廊が通じ,持送り手法による三角形の天井は今日も現存している。城塞北半部は一段低くなり,建物の跡は乏しく,非常時の城下の住民などの避難所ともいわれる。
執筆者:村田 数之亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報