改訂新版 世界大百科事典 「メガロン」の意味・わかりやすい解説
メガロン
megaron
古代ギリシア,ことに先史時代の家屋の形式の一つ。叙事詩などでは広間,宮殿,神殿をも指すが,的確にいえば玄関(ポーチ),浅い前室(ときに欠く),炉のある広い主室が前後に続く長方形プランの家型。ミュケナイ時代に完成し,この時代の最も顕著な定型となった。その原型については西アジア説とヨーロッパ説があるが,決定しがたい。いずれにせよ,ギリシアの地において発達し確定したものである。初期段階のものは新石器時代のテッサリアや初期・中期青銅器時代のギリシア本土にみられ,またトロイアでは第1市に現れ,第2市では前庭に面して堂々たる数棟があった。そしてミュケナイ時代になると,城塞の中心は必ずメガロンであり,規模と構造と威容において他の建物を圧している。ミュケナイ,ティリュンス,ピュロスのものは典型的なものである。ミュケナイのメガロンは間口11.5m×奥行き約22m,ティリュンスは12.5m×25.5mで,間口と奥行きの比は1対2となっているが,トロイアでは1対3の比である。玄関には両側壁の間に2本の柱が立ち,そこから浅い前室を経ると,ほぼ正方形プランの主室になる。この広間の中央には直径約4mの大きな炉があり,玉座がそれに面していた。この建物が平屋根か棟屋根かは決定しがたい。メガロン型式はギリシア神殿の堂体と相似しているが,直接に継承したものか,間接に継承したものかは判定しがたい。なおクレタ宮殿にメガロンの名をもつ部屋があるが,形が似るだけで独立の中心的建物でなく,便宜的に呼ばれるにすぎない。
執筆者:村田 数之亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報