建物,市街などが人為的あるいは自然の破壊によって長らくうち棄てられ,機能を失って荒れ果てた跡。エジプトやギリシア・ローマの遺跡,古城や古教会などの遺構に代表され,しばしば人間の営みに対する時の勝利や人造物に対する自然の永遠性,死の遍在の象徴とされる。この言葉からは石の冷たさと無機性が連想されるため,すぐに朽ち果てる木造建築の遺構にはあまり使用されない。
廃墟への関心は,西洋ではルネサンス期に発生した。この時代には,キリスト教の強大化にともなってヨーロッパではわずかに継承されていたにすぎない古典古代文明の積極的な再発見と復興がめざされ,エジプトの巨大な遺跡やギリシア・ローマ時代の建築物をその記念物と見るようになった。考古学的にはイエズス会士A.キルヒャーが〈バベルの塔〉の遺構探索を行い,ウィトルウィウスの《建築十書》が復権するなどの動向と軌を一にして,古代建築の見本として地中海沿岸の廃墟も注目されるようになった。ギリシア建築の伝統などがとだえていた中世では,人々は,これら古代の巨大遺跡は神話的な巨人族の建てたもの,あるいは,ノアの洪水以前にあった建物の残骸と信じていた。しかしこのような廃墟への関心の高まりは,やがて古代の廃墟に対する正しい認識を世間に広めるようになった。これにともない,宗教思想や科学思想においても自然を神の叡智が具体化したものとする認識が優勢になり,廃墟を含めた森羅万象へのフィールドワーク的な接近が始まった。これらはさらにG.P.パンニーニ,G.B.ピラネージらイタリアの版画家を経て廃墟を美術の主題とする動きを生み,自然と古城などを描くS.ローザの〈ピクチュアレスク〉絵画を通じて,西欧に廃墟趣味が普及した。
こうして18世紀になると,廃墟は人造物というよりもむしろ自然物とみなす感覚が一般的となり,この時期から本格的に製作されだした博物学図鑑の背景にも,木や草とともに廃墟が盛んに描かれた。こうして廃墟は風景画の重要なモティーフとなり,植物を自由に繁茂させる中国式庭園やイギリス式庭園の流行とも結びついた。18~19世紀にはフランスなどで新古典主義が盛んになり,ギリシア・ローマなどの古建築が賛美されるようになった。他方,同じ時期に中世へのあこがれを表明するゴシック・リバイバルが興り,その影響下に成立したゴシック・ロマンスではスイス山中の古城などが好んで舞台に用いられた。また孤絶の美学を荒れ果てた墓地にもとめるT.グレーらの墓畔詩人もここから生まれた。さらにC.D.フリードリヒをはじめとするロマン主義の画家たちは自然の荒々しい力の隠喩を廃墟に認め,自我をもつ存在(個人)の内面的葛藤を際立たせる神聖な画題としてこれを描いた。また彼らにとって廃墟は,物質的な現実が滅び霊的な未来が訪れることの暗示でもあった。19世紀にはナポレオンのエジプト遠征を機にエジプト学の興隆を見,発掘熱が高まるとともにオベリスクなどが西欧の大都市を飾るモニュメントとして用いられるようになり,またエジプト建築を模した廃墟趣味あふれる建築も流行した。
20世紀にはコンクリートで固められた都市に廃墟のイメージを重ねあわせる芸術家が現れた。とくにG.deキリコの形而上絵画は廃墟を思わせる都市風景によって現代人の不安を表現する。またフランスのグランバックAntoine Grumbach(1942- )のように,現代都市に古代との歴史的連続性を付与するため,廃墟を〈新造〉しようとする建築家も出てきている。また今日,映画や絵画が描きだす都市の廃墟は核戦争の恐怖の象徴ともなっている。(図)
→庭園
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…初期の李光洙にはトルストイ的な理想主義に立った民衆の教化者としての自覚があった。1919年の三・一独立運動の前後に金東仁,朱耀翰らの《創造》(1919年2月~21年5月),金億,廉想渉(れんそうしよう)らの《廃墟》(1920年7月~21年1月),朴鍾和,洪思容らの《白潮》(1922年1月~23年9月)といった文学同人誌が出現し,李光洙流の啓蒙主義に反発して自然主義と浪漫主義の旗印をかかげた。そうしたなかから,理想を追うよりも暗い現実を直視し,その変革を示唆する批判的リアリズムの文学があらわれた。…
※「廃墟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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