改訂新版 世界大百科事典 「テラシギラタ」の意味・わかりやすい解説
テラ・シギラタ
terra sigillata
ギリシア・ローマ考古学における陶器の一分野を指す言葉ではあるが,形式分類としての明確な概念規定はない。ただし,一般的には,前2世紀のヘレニズム陶器のうち,ペルガモン陶器のごとく,母型によって形成された装飾文を貼付した埦などに石英質の多いスリップ(クリーム状の陶土)をかけて焼成した陶器に起源をもつとされる。焼成温度はテラコッタと同じ800℃前後であるが,精製された粘土を使用するため薄く硬質な特徴を有していた。ローマ共和政末期から後4世紀まで地中海世界の各地で生産されたが,とくにアレッツォ(古名アレティウム),ポッツオリ(古名プテオリ),南フランスのものが多い。アレッツォ産のテラ・シギラタはアレッツォ焼(アレッティーノ)として区別する場合もある。用途は一般食卓用であるが,表面の赤褐色もしくは暗褐色の光沢,それに厳格な器形は金属器を模倣しようとする意図のあったことを示している。産地によって,器形,装飾モティーフ,スリップの色が異なり,繁栄した時代も違うため,出土地の通商圏,年代などを研究する際の貴重な考古資料である。また前1世紀後半以降のテラ・シギラタには窯の刻印が付されており,経済史の資料としても重要である。
執筆者:青柳 正規
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報