日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュトゥール」の意味・わかりやすい解説
デュトゥール
でゅとぅーる
Jean Dutourd
(1920―2011)
フランスの小説家。パリの生まれ。第二次世界大戦中に捕虜、脱走を繰り返しながらレジスタンス運動に参加する。戦後は初め絵画に、やがて文筆に志し、最初のエッセイ『シーザーのコンプレックス』(1946)の成功ののち、『良質バターあり』(1952)でドイツ占領下のパリ風俗を風刺を込めて描き、アンテラリエ賞を受けた。また『ワトスン夫人の回想』(1980。邦訳『ワトスン夫人とホームズの華麗な冒険』)など、むしろイギリス的なユーモアと皮肉を込めた軽妙な筆致で真実をえぐりだして、慣習に追随し、偏見にとらわれた人間を批判的に描き出すモラリスト小説家であった。ほかに政治評論、テレビ批評を行い、またヘミングウェイ、カポーティなどの翻訳がある。1978年アカデミー会員となる。その後も健筆は衰えず、『アンリあるいは国民教育』(1983)、『パンセ』(1990)、『第七日、聖書時代の物語集』(1995)などを発表し続けた。
[小林 茂]
『河盛好蔵訳『犬頭の男』(1976・出帆社)』▽『長島良三訳『ワトスン夫人とホームズの華麗な冒険』(1982・講談社)』