日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュフロ」の意味・わかりやすい解説
デュフロ
でゅふろ
Esther Duflo
(1972― )
フランス、パリ生まれの経済学者。フランスとアメリカの両国籍をもつ。専門は貧困問題、開発経済学。パリ高等師範学校、フランス国立社会科学高等研究院を経て、1999年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で経済博士号(Ph.D.)を取得。2004年にMIT教授に就任。MITの貧困アクションラボ(Abdul Latif Jameel Poberty Action Lab)の創設者の一人である。
従来、開発経済学は、貧困などの原因を究明し、途上国をどう成長させるかという経済モデルの理論研究に重点がおかれ、個々の政策の有効性はほとんど検証されなかった。デュフロはアビジット・バナジーと共同で、開発経済学に新薬開発に使われる無作為に対象を選んで効果を検証する手法「無作為化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)」を導入。1990年代後半からインドなどで、極貧家庭に乳牛などを与える生活自立支援や、勉強が苦手な子供らに対する補習支援授業が有効であることを立証した。これにより、どのような政策が途上国の貧困、教育、公衆衛生などの対策に役だつかを実験で検証する手法を確立し、国際復興開発銀行(世界銀行)などの国際機関や非政府組織(NGO)の政策決定、評価、提言に大きな影響を与えた。とくにインドでは500万人以上の子供が、デュフロらの研究から発展した補習支援プログラムの恩恵を受けている。
2019年、「世界の貧困問題の解決に向け、実験に基づく新たな手法を導入した」功績で、ノーベル経済学賞を受賞した。MIT教授のアビジット・バナジー、ハーバード大学教授のマイケル・クレマーとの共同受賞である。ノーベル経済学賞受賞者として最年少であり、女性として二人目の受賞者である。同時受賞したバナジーはデュフロの夫で、夫婦によるノーベル賞同時受賞は5組目。バナジーとの2011年の共著『Poor Economics:A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty』(邦訳『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』、みすず書房)は開発経済学のバイブル的存在となっている。
[矢野 武 2020年2月17日]