恩恵(読み)おんけい(英語表記)charis; gratia; grace

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

恩恵
おんけい
charis; gratia; grace

恩寵,聖寵,恵みとも訳される。人間に救済をもたらす神の恵みのたまものをいうキリスト教神学の基礎概念。その解釈については各教会,各学派で異なる。中世神学によれば,人間は有限の目的のため創造され,これに必要な能力がそなえられた (これを自然という) が,さらに神の無償の好意によって,無限な神自身を知と愛の目的とするよう高められ,その達成に必要な性質や能力を新たに与えられた。この性質,能力を恩恵,新しい次元全体を超自然またはの状態という。人類は全体として神にそむき (→原罪 ) ,この超自然の状態を失ったが,イエス・キリストの受肉と死と復活によってこの状態を回復した。それゆえ,恩恵はさらに罪のゆるしをもたらし,「キリストの恩恵」とも呼ばれる。恩恵が衣服のように人間本性に異質であれば,それによる救済は単に外面的なもの,強いられたものにすぎなくなる。逆に本性に内在的であれば,当然のものとなり,神からの絶対的無償性がそこなわれる。後者の線を強調したのがペラギウス派で,それによれば創造がそのまま恩恵であり,救いは結局人間の自力によるものとなり,律法主義,パリサイ主義 (→パリサイ派 ) につながる。前者を推し進めればマニケイスム (→マニ教 ) で,人間本性は根源的に堕落,悪化,破壊されたままにとどまり,救いは「人間の」救いではなく神の一方的意志行為にすぎなくなる。この緊張関係は,すでに新約の時代から,信仰による義を強調したパウロ,善業の必要を説いたヤコブ書に象徴されるように,教会の全歴史を通じて存在し,恩恵は自然を破壊せず,むしろそれを前提とし,完成するとの公理にもかかわらず,問題は完全に解決されることなく,恩恵と自由意志の問題として今日まで論争されている (→恩恵論争 ) 。宗教改革においてはカトリック側はペラギウス的傾向にひかれ,プロテスタント側はマニケイスム的傾向に傾いて信仰のみによる義を強調し,恩恵は堕落し破壊された人性を内在的に回復高揚することなく,単にそれによって神が人間を義とみなすという義認説をとった。

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デジタル大辞泉の解説

おん‐けい【恩恵】

恵み。いつくしみ。「恩恵を施す」「自然の恩恵に浴する」
キリスト教で、神の恩寵(おんちょう)。

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大辞林 第三版の解説

おんけい【恩恵】

恵み。いつくしみ。 「 -をこうむる」 「 -を施す」 「福祉の-に浴する」

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精選版 日本国語大辞典の解説

おん‐けい【恩恵】

〘名〙
① めぐみ。いつくしみ。なさけ。恩沢(おんたく)
※明衡往来(11C中か)上末「予空座右耳。抑恩慶之甚也」
※太平記(14C後)三〇「君臣和睦の恩恵(ヲンケイ)を施され候は」 〔春秋左伝注‐成公一八年〕
② キリスト教で、神が人間に与える恵み。カトリックでは聖寵(せいちょう)という。新約聖書では、イエス=キリストにおいて示された神の愛を言い表わす言葉となっている。〔哲学字彙(1881)〕

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世界大百科事典内の恩恵の言及

【恩寵】より

…恩恵ともいう。ギリシア語ではcharis,ラテン語ではgratia。…

※「恩恵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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