日本大百科全書(ニッポニカ) 「トカイワイン」の意味・わかりやすい解説
トカイワイン
とかいわいん
tokay ハンガリー語
Tokaj ハンガリー語
ハンガリーの北部、トカイという町を中心とした山麓(さんろく)地方でつくられる天然甘口の白ワイン。ここに初めてブドウを植え、ワインをつくったのは、紀元前276~前82年ごろ占領したローマ人である。その後ワイン醸造に秀でたワロン人によって、13世紀ごろ新しいブドウの品種フルミントが持ち込まれた。甘口の優れたワインが誕生したのは17世紀になってからで、18世紀に入ってこの地域のカトリック司教がローマ法王にトカイ・アスーのワインを贈ったところ、法王はこのワインが気に入り、愛飲したため世界的に有名になったという。
トカイ地方は火山灰質で、夏は暑く、秋は長く、冬は厳寒で、ブドウ栽培にはあまり適していないが、ここでフルミントという黄色種がおもに栽培されている。ブドウは晩秋まで木に放置され、その間に果皮の表面に貴腐菌(ボトリシス・シネレア)が繁殖し、貴腐ブドウとなる。収穫時は貴腐ブドウをプトニヨシュputtonyosとよばれる籠(かご)に入れる。普通の過熟ブドウ果汁に貴腐果汁を加えて混醸するが、約130リットルのブドウ果汁に貴腐ブドウ果汁を約30リットル加えることを、1プトニヨシュという単位で表す。貴腐果粒の入ったプトニヨシュがいくつ加えられるかで、ワインの甘さが左右される(プトニヨシュが多いほど甘さが増す)。
このようにしてつくられたワインは甘口で、香りが高く、味が濃厚で、色は黄金色に輝き、白ワインの最高級にランクされる。これはトカイ・アスーとよばれる。また、貴腐ブドウのみでつくられたワインをトカイ・エッセンシアとよぶ。なお、これより品質が一段劣るワインにトカイ・サモロドニがある。
[原 昌道]