貴腐ワイン(読み)きふわいん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「貴腐ワイン」の意味・わかりやすい解説

貴腐ワイン
きふわいん

貴腐ブドウからつくられるワイン。不完全菌(カビ)の一種であるボトリシス・シネレアが過熟したブドウの果皮上に繁殖し、果皮のろう質を溶かし、その他の水分が蒸発して、ブドウがしぼんだ状態になったものを貴腐という。この貴腐ブドウは糖分が濃縮されており、果汁では30~40%にもなる。したがって、酵母による発酵でアルコールが14%生成しても、まだ糖分は10%ぐらい残存しており、甘口の酒が得られる。また貴腐は糖分のみならず、他の成分も濃縮され、さらにグリセリングルコン酸などが生成されており、これからつくられるワインは香りが高く、味は濃厚で滑らか、黄金色をした最高級の白ワインである。

 フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、ハンガリーのトカイ・アスーがこの貴腐ブドウからつくられる。わが国でも近年つくられるようになった。なお、貴腐菌は未熟なブドウに生育するとブドウを腐らせてしまう。また赤ブドウの色素を退色させる。したがって、完熟した白ブドウに生育したときにのみ優良なワイン原料になる。貴腐はドイツ語でエーデルフォイレEdelfäule、フランス語でプーリチュール・ノーブルpourriture noble、すなわち「高貴なる腐敗」とよばれる。

[原 昌道]

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