日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワロン人」の意味・わかりやすい解説
ワロン人
わろんじん
Wallonese
ベルギー南半で用いるワロン語を母語とする人々。ベルギー全人口の約3分の1を占めるとみられ、ほとんどがカトリック教徒である。ワロン系住民の居住地域(ワロニア)は、リエージュを中心とする工業地帯とドイツ・フランス国境に近いアルデンヌ高原とからなる。この地域はローマ時代以降、ラテン(ラテン化したケルト)文化の北端にあたり、北接するゲルマン系住民との文化的相違を長く意識してきた。しかし、現在の民族的感情には近代史の影響が大きい。18世紀末にヨーロッパ大陸最初の産業革命が資源に恵まれたワロニアで始まると、ワロン人が近代ベルギー王国の指導権を握った。一方、とくに1870年代から、経済的に遅れていたフラマン系住民の人口が急増してその政治的自覚が高まると、先発的ワロン、後発的フラマン両系住民の民族的対立感情が強まった。第一次世界大戦後以降、政治的不安定にまで発展したワロン、フラマンの民族的対立を緩和する目的で1930年代から制度化され、1963年の言語法制定でいちおうの完成をみた言語平等主義にもかかわらず、60年代以降のワロニア工業の不振も作用してワロン人意識が「フラマン人」との対立を生む状態にあった。このような両者の拮抗(きっこう)が続いた結果、1993年、ベルギーは言語別の三つの「共同体」と、三つの「地域」からなる連邦国家に移行した。
[佐々木明]