改訂新版 世界大百科事典 「トトメス3世」の意味・わかりやすい解説
トトメス[3世]
Thotmes Ⅲ
古代エジプト第18王朝6代目の王。在位,前1490ころ-前1436年ころ。古代エジプト史上最大の版図をもつ大帝国を築いた。トトメス2世の庶子で,父王の急逝により幼年で即位した。治世の前半22年は共治王となった義母ハトシェプスト女王が国政の実権を握り,平和交易外交を推進したが,女王の死後ただちに対外遠征を再開した。17回以上に及ぶアジア親征によりミタンニ勢力をシリア・パレスティナより駆逐し,北境をユーフラテス河畔,南境もナイル川第4急湍(きゆうたん)にまで広げた。行政家としても有能で,南のヌビアに対しては総督による直接統治,アジアに対しては3人の属州総督と駐屯軍を要所に派遣するが,世子の人質と引換えに都市国家諸侯の自治を大幅に認める間接統治を採用し,安定した植民地支配体制をつくりあげ,当時のオリエント世界の盟主として君臨した。貢租,戦利品,大国の君主の贈物などにより大量の富が流入し,エジプトは空前の繁栄を示した。一方,帝国の守護神アメンへの莫大な寄進がはじまり,アメン神官団は国政への影響力を増し,〈アマルナ革命〉の遠因をつくった。
執筆者:屋形 禎亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報