ドイツ銀行(読み)どいつぎんこう(英語表記)Deutsche Bank AG

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドイツ銀行」の意味・わかりやすい解説

ドイツ銀行
どいつぎんこう
Deutsche Bank AG

商業銀行業務から証券・保険業務までを手がけるドイツの大手金融機関。フランクフルト本社を置く。

 1870年、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国と海外市場間の貿易関係を促進し、便宜を図ることを目的として民間銀行家たちによってベルリン設立された。しかし設立の直接的なねらいは、当時イギリスの銀行が占有していたドイツの海外取引に関する財政的支配権を奪取することにあった。ドイツ銀行は、1871年から1873年にかけて、ブレーメン、横浜、上海(シャンハイ)、ハンブルク、そしてロンドン支店を設けた。しかし1875年に上海、横浜支店は閉鎖され、これはドイツ銀行が国際業務を行うことがいかに困難であるかということを表していた。1880年代に入ってからは、ドイツ国内の電機産業や鉄鋼産業の育成に寄与し、さらにドイツ海外銀行Deutsche Ueberseeische Bankの設立(1886)などにより国際業務を順調に拡大していった。1888年、トルコ政府から鉄道建設の認可を取得し、1892年に、アナトリア鉄道を完成、開業させた。第一次世界大戦後、敗戦とその影響による経済的混乱なか、1929年に最大のライバルであったディスコント・ゲゼルシャフトDisconto-Gesellschaft(1851年設立)と合併した。これにより、ドイツ鉱工業の中心地における地位を強化したうえに、南ドイツ経済に進出する足掛りを得たことで、後の発展に多大な影響をもたらした。しかし、合併と同年に始まった大恐慌はドイツの金融界に多大なダメージを与え、銀行は経営を再建する必要に迫られた。第二次世界大戦後、「集中排除法」によりドイツ銀行は1947年から1948年にかけて10行に解体されたが、分割された銀行のコストが以前よりも高くなった反面、収益が少なくなったことから、1952年、分割された銀行をいくつか統合し地方銀行とすることが認められ、3地域で営業が開始された。1956年、それまでの制限が撤廃され、1957年にドイツ銀行は株式会社としてふたたび統合された。ドイツが債務国から債権国へと発展するにつれ、ドイツ銀行の海外取引も活発となり、ふたたび国際業務を拡大していった。1990年、東西ドイツの統合によりドイツ信用銀行と合弁銀行を設立し、旧東ドイツでの業務を開始した。1998年11月、全米8位(1998)の銀行持株会社バンカース・トラストを買収することを発表して世界の注目を集め、1999年6月に買収を完了させた。これによりドイツ銀行の資産規模はドル換算で約8500億ドルに膨れ上がり、アメリカのシティグループ、スイスのUBSを抜いて世界トップクラスの銀行が誕生した。

 ドイツ銀行は銀行業務のほか、証券、生命保険などあらゆる金融業務を遂行するユニバーサル・バンキング・システムをとっている。ドイツでは大銀行と大企業との間で、資本および人的融合関係が形成されてきたが、最大の金融機関であるドイツ銀行の産業界に与える影響はとりわけ大きく、ドイツの大手企業グループであるダイムラーグループの筆頭株主であるのをはじめ、主要な大企業の株式を所有し、役員派遣、株主総会での議決権行使等を通じて影響力を行使してきた。一方、ドイツ銀行の顧問団(社外重役)には、ダイムラー・クライスラー(現ダイムラー、自動車)、フォルクスワーゲン(自動車)、ジーメンス(電機)、BASF(化学)、バイエル(薬品)などの大企業のトップが名を連ねており、ドイツ銀行との間に株式の持ち合い構造を築くことで強固な関係を構築してきた。ドイツではしばしば、大銀行による産業支配の構図が指摘されるが、ドイツ銀行はまさにその産業支配の中核を担ってきた。

 バンカース・トラストの買収、1999年1月から実施されているヨーロッパ単一通貨ユーロの導入を契機として、ドイツ銀行は大幅な事業部再編に取り組んだ。企業組織を事実上の持株会社形態とし、バンカース・トラストの買収により従来の投資銀行業務を強化する一方で、個人や中小企業向けのリテール(小口金融)部門は分離、子会社化するなど大胆な構造改革を推進した。

 2001年9月、アメリカを拠点とする資産運用会社チューリヒ・スカダー・インベストメント社Zurich Scudder Investment Inc.の買収を発表。同年10月にニューヨーク証券取引所に株式を上場。2008年9月にドイツ・ポスト・バンク株式の29.75%買収を発表。2008年の総資産額は2兆2020億ユーロ、支店数は1981、従業員数は8万0456人。

[所 伸之]

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